M5 F10 のエンジンルームからガラガラ音が聞こえたとき、ネットで見かけた部品名だけで原因を決めて、先に部品を買ってしまうのは起きやすい見落としだ。同じガラガラ音でも、BMW の技術資料・部品販売店のガイド・JAF はそれぞれ別の原因を挙げている。音の出る場所と出る場面で当たりをつけ、走ってよい音かを見分けたうえで、販売店や整備工場の診断に回すのが正しい順番だ。
音の出る場所と場面で、原因の当たりは変わる
M5 F10 の異音は、どこで・どんな場面で鳴るかで疑う先が変わる。米国で公開された BMW の技術資料のうち M5 を対象に載せた 2 件(対象は 2013 年式と 2014 年式の M5)は、エンジンルームのガラガラ・シュー音を排気マニホールドのねじの緩みに、停止するときのブレーキの鳴きをカーボン・セラミック・ブレーキの機能上の音に結びつけている。一方で、エンジン付近のガラガラ音やハンドル操作時の異音のように、走るのをやめて点検を頼むべき音もある。
| 聞こえる場所・場面 | 挙げられている原因 | 出典 | 先にすること |
|---|---|---|---|
| エンジンルーム。負荷がかかると目立つガラガラ・コツコツ・シュー音 | 排気マニホールドの取り付けねじの緩みによる排気漏れ | BMW の技術資料 TSB 110514(米国・対象は 2013 年式の M5) | 販売店で診断 |
| カーボン・セラミック・ブレーキ装着車の、低速時・停止するときの鳴き | 素材に知られた機能上の音 | BMW の技術資料 TSB B340714(米国・対象は 2014 年式の M5) | 装着の有無を確かめる |
| エンジン付近のガラガラ・キュルキュル音 | エンジンオイルの不足や潤滑不良・ベルトの滑り | JAF | 止めて点検を頼む |
| ハンドルを回したときの異音 | ステアリング機構の異常の可能性 | JAF | 走行をやめる |
M5 F10 の基本:年式・エンジン・駆動系・ブレーキ
音の出どころを考える前に、F10 型 M5 の成り立ちを押さえておく。
発売と生産終了の時期
BMW の専門メディア BMWBLOG によると、F10 型の M5 は 2011 年のフランクフルト・モーターショーで公開されて 2011 年 11 月に発売され、約 6 年の生産を経て 2017 年 3 月に生産を終えた。後継は F90 型の M5 で、2017 年末から生産の予定と報じられた。アジアでは 2011 年 12 月 3 日〜11 日の第 42 回東京モーターショーで初公開されている。
エンジン・駆動系・ブレーキの構成
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| エンジン | S63TU 型(X5 M と X6 M で先に登場)。高回転型 4.4 リッター V8 に M ツインパワー・ターボを組み合わせる | BMWBLOG・BMW の公式発表 |
| 最高出力・最大トルク | 412kW(560hp)/6,000〜7,000rpm、680Nm/1,500〜5,750rpm | BMW の公式発表 |
| 排気量 | 4395cc の V8 DOHC 直噴ツインターボ(欧州仕様の値) | Webモーターマガジン |
| 駆動・変速機 | 後輪駆動。7 速の M ダブルクラッチ・トランスミッション(ドライブロジック付き) | BMW の公式発表 |
| デフ | 電子制御の多板式リミテッド・スリップ・デフ(アクティブ M ディファレンシャル)。ロックの度合いを 0〜100% の間で変える | BMW の公式発表 |
| ブレーキ | 軽量なコンパウンド構造のブレーキ(公式発表に寸法の記載は無い)。フロントに 6 ピストンのキャリパー、ローター径はフロント 400mm・リア 396mm(欧州仕様の値) | BMW の公式発表・Webモーターマガジン |
音の出どころになりうるのは、ターボ付きの V8 と排気系、変速機とデフを通る後輪の駆動系、足回り、そしてブレーキだ。
エンジンルームのガラガラ・コツコツ・シュー音
排気マニホールドのねじの緩み
米国で公開された BMW の技術資料(TSB 110514)では、エンジンの運転中にエンジンルームからガラガラ・コツコツ・カタカタ、またはシューという音が聞こえることがあり、エンジンに負荷がかかるときに目立つとしている。原因は排気マニホールドの取り付けねじが緩んで排気が漏れること。資料は 2014 年 4 月の掲載で、対象として 2013 年式の M5(S63TU エンジン)が載る。
ただし米国で公開された資料で、日本で販売された車両やほかの年式の車両が同じ対象になるかは、この資料からは分からない。掲載ページには修理の手順の記載も無い。自分の車が当てはまるかは、正規ディーラーに車台番号を伝えて確かめる。
ウェイストゲートのガタ・チャージパイプ・コンロッドベアリング
欧州車の部品販売店 Euro Premium Parts の M5 F10 購入ガイドでは、S63TU 周りの音として次のものを挙げている。
- 軽いアクセル操作のときや暖機中のアイドリングの金属的なガラガラ音:ターボのウェイストゲートのアクチュエーターのアームのガタ。S63TU の知られた特徴だという
- 強い加速のときのシューという音:純正の樹脂製チャージパイプと、インタークーラーとの接続部のシリコン製カプラーが、熱の繰り返しで劣化すること
- 始動時や負荷がかかるときのノッキング音(コツコツ・ゴツゴツした音):コンロッドベアリングの、高負荷の走りでの潤滑不足。特にオイル交換の間隔が長い場合
オイル不足・ベルトの滑り
JAF のクルマのトラブル Q&A では、ガラガラ音はエンジンオイルの不足や潤滑不良、キュルキュル音はベルトの滑りの可能性があり、どちらも点検が必要な状態としている。状況によっては潤滑不良や冷却不良でエンジンが焼き付き(金属どうしの摩擦部分が加熱して溶けて固着すること)、エンジンがかからなくなることもあるという。
このように、エンジンルームのガラガラ音ひとつでも、BMW の技術資料は排気漏れを、部品販売店のガイドはウェイストゲートのガタを、JAF はオイルの不足や潤滑不良を挙げていて、原因の候補は複数ある。音だけで部品を決めて買わず、販売店や整備工場で診断してもらってから修理の内容を決める。
ブレーキの鳴きは、付いているブレーキで意味が変わる
米国で公開された BMW の技術資料(TSB B340714)では、オプションのカーボン・セラミック・ブレーキが低速時や停止するときに出す鳴き(キーキー音や警笛のような音)を、この素材に知られた機能上の音としている。この音はブレーキの性能・作動の信頼性・耐久性に影響せず、部品を交換しても音は消えないと説明している。資料は 2018 年 11 月の掲載で、対象として 2014 年式の M5 が載る。
この説明を当てはめられるのは、自分の車がカーボン・セラミック・ブレーキを装着している場合だけだ。カーボン・セラミック・ブレーキはオプションの装備で、標準のブレーキ(BMW の公式発表では軽量なコンパウンド構造のブレーキ)とは別物になる。装着の有無は購入時の書類や販売店で確かめる。資料は米国の 2014 年式が対象で、日本の車両への当てはめは資料からは分からない。標準のブレーキの車で鳴きが気になるなら、この資料を根拠にせず、販売店や整備工場で見てもらう。
足回り・駆動系・タイヤ付近・ハンドル操作時の音
段差を越えるときのゴトゴト音
同じ Euro Premium Parts の購入ガイドは、フロントのコントロールアームのブッシュについて、段差を越えるときのゴトゴトという音を挙げ、元気な走り方やサーキット走行をした車で早く傷みやすいとしている。
強い加速のときに大きくなる音
同じガイドは、リアのサブフレームとデフのマウントが傷むと、強い加速のときの音が大きくなるとしている。理由として挙げるのは、これらのマウントが大きなトルクを受け止めていること。M5 F10 は 7 速の M ダブルクラッチ・トランスミッションとアクティブ M ディファレンシャルを通して後輪へ力を伝える。
ハンドル操作時・タイヤ付近の音
JAF のクルマのトラブル Q&A では、ハンドルを回したときの異音はステアリング機構の異常の可能性があり、ハンドル操作ができなくなるおそれがあるので走行は大変危険としている。ハンドル操作時の振動や、ハンドルが重いといった症状を伴うこともある。走行中にタイヤ付近から聞こえる異音については、タイヤに異物が刺さっている・走行に関わる部品が傷んでいるなど発生源が多岐にわたり、点検が必要な状態としている。
故障とは限らない音と、エンジンをかけてはいけない音
エンジンを止めた後のファンの音
JAF のクルマのトラブル Q&A では、一部の車種はエンジンを冷やすためにエンジン停止後もしばらく冷却ファンが回り続けるとしている。ただし長時間回っている場合は故障の可能性もあり、すみやかに販売店や整備工場で点検を受けるよう勧めている。M5 F10 がそうした車種に当たるかは JAF の案内からは分からないので、長く回り続けるなら点検に出す。
ワイパーのビビり音
JAF の Q&A では、ワイパーが動くときのビビり音は、ガラス面の汚れ・撥水コーティングの影響・ワイパーゴムの劣化が原因として考えられるとしている。対処は次の順番だ。
- 窓ガラスの汚れを落とす
- 撥水コーティングをしているなら、ワイパーゴムにビビり防止剤を塗る
- それでも直らなければ、ゴムかワイパーブレードごと交換する
自分での交換が難しければ販売店や整備工場に相談する。ブレードを替えるときは
でサイズを確かめておく。
猫などの鳴き声
JAF の Q&A では、猫などの鳴き声がするときは、ベルトなどに動物が巻き込まれることがあるためエンジンを始動しないよう案内している。ボンネットなどエンジンルームの付近をやさしくたたいても解決しなければ救援を頼む。不用意に手を入れると噛まれてけがや感染症のおそれがある。
電動パーキングブレーキのアクチュエーターの交換を勧められたら
互換品の商品名には「異音 交換」の語が並ぶが、電動パーキングブレーキのアクチュエーターが M5 F10 の異音の原因になると示す資料は、ここで参照した資料の中には無い。後輪側の音やパーキングブレーキの不調が気になるときは、部品を先に買わず、販売店や整備工場で診断してもらう。 アクチュエーターの交換と判断されたら、付いている部品の品番を確かめてから手配する。
純正品の品番と適合の一覧
BMW 部品の販売店 BimmerWorld の適合の一覧では、BMW 純正の電動パーキングブレーキのアクチュエーター(品番 34216794618。旧品番 34216791420 を置き換え)が「F10 / F11 (11-16) > M5 (2013-2016)」の行に載る。後輪の左右どちらにも付く部品で、取り付けボルトと O リングが付属すると書かれている(1 台あたりの個数の記載は無い)。
この一覧は米国の販売店のもので、M5 の行の年式は 2013〜2016。2011〜2012 年の車両はこの行に載っていない。日本の車両は、車検証の情報と装着されている部品の品番を販売店や整備工場で確かめてから部品を選ぶ。
2 つの互換品の違い
CAPSOL の 2 商品は、どちらも商品名と販売ページの商品説明で BMW 互換品(純正品ではない)とされ、対応として F10 の 523i・528i・535i・550i・M5、F11 の 523i・528i・535i・535iX・550i、F06・F12・F13 の 640i・650i・M6 が並ぶ。ただし 2 商品とも、販売ページの商品説明に「34216794618 / 34216791420いずれかの取付車両に限ります。」と書かれている(出品者の記載)。M5 F10 でも、今付いている部品がこの品番かを確かめてから選ぶ。
| 商品 | 商品名・箇条書きの字 | 付属品の記載 |
|---|---|---|
| CAPSOL B0FCRV5DKQ | 左右セット | 商品名と商品説明の箇条書きに記載が無い |
| CAPSOL B0FCQYKVFK | 左右共通(何個入りかの記載が無い) | 商品名と商品説明の箇条書きに記載が無い |
左右両方を替えるのか片側だけかは、整備工場の診断で決めてから選ぶ。付いている部品が 34216794618 か 34216791420 で、左右とも替えると診断されたら、「左右セット」と書かれた B0FCRV5DKQ が候補になる。B0FCQYKVFK は何個入りかが商品名と商品説明の箇条書きのどちらにも書かれていないので、注文する前に出品者に個数を確かめる。BimmerWorld の純正品のページは取り付けボルトと O リングが付属すると書くが、2 つの互換品には付属品の記載が無いので、取り付けに要る部品は作業を頼む整備工場に確かめる。
CAPSOL パーキングブレーキ EMF アクチュエーター 左右セット(BMW F10 ほか用・互換品)
CAPSOL パーキングブレーキ EMF アクチュエーター 左右共通(BMW F10 ほか用・互換品)
点検に出す前に記録することと、走るのをやめる判断
JAF は、連絡するときに今の状況を説明するよう求め、症状を伝えると販売店や整備工場とのやりとりが早く進むとしている。点検に出す前に、次のことをメモしておき、そのまま伝える。
- 音の種類:ガラガラ・シュー・キーキー・ゴトゴトなど
- 聞こえる場所:エンジンルーム・前輪・後輪・足元など
- 出る場面:始動直後・暖機中・加速時・段差・ハンドル操作時・ブレーキをかけたとき・エンジン停止後
走るのをやめて連絡する音
エンジン付近のガラガラ音・キュルキュル音、ハンドル操作時の異音、走行中のタイヤ付近の異音は、JAF が点検の必要な状態として救援の要請を案内している音だ。特にハンドル操作時の異音は走行が大変危険とされる。こうした音が出たら、安全な場所に止めて自分の安全を確かめてから、販売店・整備工場やロードサービスに連絡する。
リコール・不具合の情報の確かめ方
国土交通省の案内では、リコールの対象になるとハガキ等で自動車メーカー等から直接通知される。通知が無い・気になる場合は、メーカーか購入した販売店に問い合わせる。国のリコール検索は対象を車台番号の範囲で示すため、工場や仕様の違いで対象外の車両が含まれることがあり、個別の車両の確認はメーカーに問い合わせるよう案内している。一部のメーカーは車検証の車台番号を入力して該当するリコールを確かめられる。先に挙げた米国の技術資料の対象に当たるかも、正規ディーラーに車台番号を伝えるときにあわせて確かめてもらう。
不具合を届け出たいときは、国土交通省の自動車不具合情報ホットラインで、車名・型式・車台番号・走行距離などの車両の情報と、不具合の発生時期・概要・状況の詳細を入力して届け出られる。寄せられた情報はメーカーへの連絡や調査の依頼に使われることがあるが、個々の情報への回答や調査状況の報告は行っていない。
よくある質問
カーボン・セラミック・ブレーキの鳴きは故障?
米国の 2014 年式の M5 を対象にした BMW の技術資料 TSB B340714 は、低速時や停止するときの鳴きを機能上の音とし、性能に影響せず部品交換でも消えないとしている。当てはまるのはカーボン・セラミック・ブレーキを装着した車だけで、日本の車両への当てはめは資料からは分からない。
暖機中のアイドリングで金属的なガラガラ音がするのは?
Euro Premium Parts の購入ガイドは、ウェイストゲートのアクチュエーターのアームのガタを原因に挙げている。ただしガラガラ音には排気漏れやオイルの不足といった別の候補もあるので、診断を先にする。
エンジンを止めた後もファンの音がするのは?
JAF は、一部の車種はエンジン停止後もしばらく冷却ファンが回り続けるとしている。長時間回るようなら故障の可能性もあるので、販売店や整備工場で点検を受ける。
米国の技術資料は日本の M5 F10 にも当てはまる?
資料からは分からない。TSB 110514 の掲載ページの対象は 2013 年式の M5、TSB B340714 の対象は 2014 年式の M5 で、日本で販売された車両やほかの年式の車両が同じ対象になるかは書かれていない。正規ディーラーに車台番号を伝えて確かめる。
まとめ:場所と場面で候補を絞り、診断と品番で確かめる
異音が出たら、まず音の場所と出る場面から原因の候補の当たりをつけ、どれが原因かは販売店や整備工場の診断で決めてもらう。部品が要ると分かったら、付いている部品の品番とメーカーの情報で合うかを最後に確かめてから手配する、という順番を守る。
- 同じガラガラ音でも原因の候補は複数あるので、音だけで部品を買わない
- エンジン付近のガラガラ・キュルキュル音、ハンドル操作時やタイヤ付近の異音は、安全な場所に止めて連絡する
- 電動パーキングブレーキのアクチュエーターは異音の原因と決めつけず、交換と診断されてから品番で確かめる
M5 F10 のほかの手入れや部品選びは、次の記事も参考にしてほしい。
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