サービスエリアで仮眠を取ろうとして後席を倒し、横になった瞬間に腰の下の落ち込みに気づく——ワゴンRの車内は、シートを倒しただけでは平らになりません。6代目ワゴンR(MH35S/MH55S)の室内長はカタログ値で2,450mmありますが、この数値がそのまま寝床の長さになるわけではなく、前席と後席のつなぎ目には深い谷が残ります。車中泊マット選びで決まるのは、この谷をどう埋めるか、そして左右に余裕のない室内幅にどう収めるかの2点です。型式ごとの寸法と、MH35S世代ならではの専用マット事情まで、購入前に確認する順番で並べました。
MH35Sの室内寸法と、寝床に使える範囲
まず寸法を押さえます。ここで扱う型式は6代目ワゴンRの自然吸気モデルであるMH35Sで、マイルドハイブリッドのMH55Sも室内の骨格は共通です。
カタログ諸元(MH35S・FA・2WD)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 型式 | DBA-MH35S |
| 全長×全幅×全高 | 3,395×1,475×1,650mm |
| 室内長×室内幅×室内高 | 2,450×1,355×1,265mm |
| ホイールベース | 2,460mm |
| 車両重量 | 780kg |
| 乗車定員 | 4名 |
| エンジン型式 | R06A(658cc・自然吸気) |
(数値はGAZOOのカタログに掲載されたワゴンR FA/型式DBA-MH35Sの主要諸元による)
軽自動車としては室内長が長い部類で、6代目でプラットフォームがHEARTECTへ切り替わったことが効いています。ただし、この2,450mmという数値をマットの長さに直結させると失敗します。
室内長2,450mmを寝床の長さと読み替えない
自動車の室内長は、インパネの前端付近から後席背もたれの後端までを測った数値であり、人が横になれる連続した平面の長さではありません。ワゴンRの場合、実際に体を預けられるのは前席の背もたれを倒した面から荷室フロアまでの範囲で、そこにはシートの厚みも段差も含まれます。
カタログの室内長は「マットのサイズを決める根拠」にはならず、寝床の長さは自分の車で実測するしかありません。 同じMH35Sでも、後席のスライド位置と前席の前後位置で寝床の全長は数十cm単位で変わります。実測の手順は後半にまとめました。
室内幅1,355mmという数値も同様で、これは室内がもっとも広い位置での値です。荷室側はリアタイヤハウスが左右から張り出すため、マットを敷ける実質的な幅はこれより狭くなります。マットの幅を決めるときに見るべきなのは、室内幅ではなく最狭部の実寸です。
段差が出る場所と、その正体
ワゴンRで寝床を作るときに問題になるのは、面の高さがそろわないことです。段差は主に2か所に出ます。
前席の背もたれと後席のつなぎ目
前席の背もたれを後ろへ倒すと、背もたれの裏面が後席の座面に向かって傾斜します。このとき、前席の座面と背もたれの折れ目にあたる部分が谷になり、腰からお尻のあたりがそこへ落ち込みます。車中泊マットで最優先に埋めるべきなのはこの谷で、ここを放置すると厚いマットを敷いても腰痛の原因になります。
谷の深さは、シートのリクライニング角度、ヘッドレストを外したかどうか、後席をどこまでスライドさせたかで変わります。数値は車両ごと・アレンジごとに違うため、カタログには載りません。
ワゴンRで取れるシートアレンジそのものの選択肢は、
に整理しています。マットの厚みは、どのアレンジで寝るかを決めてから選ぶ順番になります。
後席とラゲッジフロアの境目
後席を前へ倒して格納すると、倒した背もたれの裏面と荷室フロアの間にも高さの違いが出ます。スズキ公式の室内空間ページによれば、6代目ワゴンRの後席は左右独立でスライドとリクライニングができ、ワンタッチで前倒し格納できる構造です。この自由度の高さは荷物を積むときには効きますが、寝床としては「面が3枚に分かれる」ことを意味します。前席の背もたれ、後席の背もたれ裏、荷室フロア——この3枚の高さをそろえる作業が、車中泊マット選びの実体です。
マットの厚みをどう決めるか
厚みは「寝心地」ではなく「谷を埋められるか」で決めます。
谷を埋めるくさび形という考え方
ワゴンR MH35S/55S系(スティングレーを含む)に対応する車種専用の段差解消マットとして、趣味職人の「くるマット」があります。公式オンラインショップの商品仕様によれば、1台分は4個セットで、厚みは前側12cm・後側2.5cmというテーパー(くさび)形状です。用途も「助手席と後部座席との段差を埋めてフラットにする」と明記されています。
ここから読み取れるのは、メーカーが前後で10cm近い高低差を想定して設計しているという事実です。均一な厚みのマットを1枚敷くだけでは、この傾斜は埋まりません。谷の深い側に厚みを寄せる、という発想が要ります。
均一厚のマットを重ねて合わせる
専用のくさび形マットを使わない場合は、汎用のインフレーターマットやウレタンマットを組み合わせて高さを作ります。手順としては、まず谷の底になる部分にタオル・座布団・クッションを詰めて大まかな高さをそろえ、その上から全体を覆う厚みのあるマットを1枚敷きます。下地で高さを作り、上のマットで面をならす、という二層構造です。
厚みを1枚で解決しようとすると、必要な厚さは10cm前後に達し、室内高1,265mmのワゴンRでは頭上が窮屈になります。下地で埋めてから上に5〜8cm程度のマットを重ねるほうが、天井までの余裕を残せます。
マットのサイズと分割数の決め方
厚みが決まったら、次は平面のサイズです。
幅は最狭部に合わせる
マットの幅は、室内でもっとも狭くなる位置に合わせます。ワゴンRでは荷室のリアタイヤハウス間がその位置になり、ここを超える幅のマットは、無理に押し込むと端が持ち上がって寝面が波打ちます。
大人2人で寝る前提なら、幅60cm前後のシングルマットを2枚並べる構成が扱いやすくなります。1枚ものの大きなマットは車内での取り回しが難しく、出し入れのたびに前席まで持ち上げる必要が出るためです。乗車定員が4名の車で、実際に横になれるのは2人までと考えるのが現実的です。
マットは使わない日も車内に積んだままになりがちで、収納したときのかさが日常の使い勝手を左右します。インフレーターマットは空気を抜いて巻いても筒状のかさが残り、2枚分をまとめると荷室の面積をそれなりに占有します。商品ページに載っている収納時の寸法と、後席を起こした状態の荷室の奥行きを見比べておくと、寝具を積んだまま普段乗りできるかどうかが買う前に分かります。
長さは分割して合わせる
長さ方向は、1枚の長いマットで通すより、分割したマットをつないだほうが段差に追従します。前席側・後席側・荷室側の3枚に分けておけば、それぞれの高さを個別に調整でき、後席のスライド位置を変えたときにも並べ直しで対応できます。
分割マットの利点は、寝る人の身長に合わせて長さを足し引きできる点にあります。 身長170cm前後なら後席から荷室にかけての2枚で足り、それ以上なら前席側に1枚追加する、という調整ができます。
MH35S世代のマット事情:専用品は少ない
車中泊マットには、車種ごとに形を合わせた専用品と、どの車にも使える汎用品があります。MH35S世代では、この選択肢の分布に特徴があります。
専用マットのラインアップは世代で偏っている
車中泊用品ブランドのLevolva(レヴォルヴァ)は、公式の車中泊マット&ベッドのラインアップページで、ワゴンR用の専用スマート車中泊マットとしてMH23S用(LVMR-5)とMH34S/MH44S用(LVMR-7)を掲載しています。一方で、MH35S以降の世代に向けた専用マットは同ラインアップに含まれていません。
つまり、MH35S/MH55Sのオーナーが選べる「寝面まるごとの専用マット」は選択肢がかなり限られるということです。先代のMH34Sには専用品があり、その世代の情報を見て「自分の車にも専用マットがあるはず」と探すと行き止まりになります。先代の事情は
にまとめてあります。
現実的な組み合わせ
MH35Sで組むなら、段差解消に特化した専用品(前述のくるマットのようなくさび形の4個セット)で谷を埋め、その上に汎用のインフレーターマットを敷いて寝面をならす、という二段構えが現実的な着地点になります。汎用マットは車種を問わないため、乗り換え後も使い回せます。
エアマットは収納時に小さくなりますが、空気の量で高さを調整するため、傾斜のある面では寝ているうちに空気が移動して低い側に体が寄ります。段差の残るワゴンRの車内では、自動で膨らむインフレーターマット(中にウレタンが入ったタイプ)のほうが形が崩れにくく扱いやすくなります。
MH35S・MH55S・MH85S・MH95Sの見分けと適合
商品ページの適合表には複数の型式が並びます。自分の車がどれに当たるかを先に確定させます。
型式はパワートレインで分かれる
6代目ワゴンR(2017年2月発売モデル)の型式は、搭載するパワートレインで分かれます。
| 型式 | パワートレイン | 該当グレードの例 |
|---|---|---|
| DBA-MH35S | 自然吸気(NA)ガソリン | FA など |
| DAA-MH55S | マイルドハイブリッド | ハイブリッドFX/ハイブリッドFZ |
| MH85S | 自然吸気(NA)ガソリン | 2020年1月以降の同系グレード |
| MH95S | マイルドハイブリッド | 2020年1月以降の同系グレード |
(型式とパワートレインの対応はグーネットの6代目ワゴンRカタログによる)
車検証の「型式」欄を見れば、MH35SなのかMH55Sなのかは一目で判別できます。マット選びの観点では、この4つの型式は同じ6代目として扱われ、室内の骨格が共通であるため適合表でひとまとめに記載されます。
適合表が世代でまとまる理由
くるマットの適合が「ワゴンR MH35S/55S系(スティングレー含む)」という書き方になっているのは、シートの形状とフロアの段差構造がこの世代で共通だからです。スティングレーは外装と内装の仕上げが異なるモデルですが、シートの骨格は標準車と共有しています。
逆に言えば、MH34S以前の型式を対象にした専用マットは、MH35Sには合いません。世代をまたいだ流用は、寸法が近く見えても段差の位置がずれるため避けたほうが無難です。
買う前にやる実測3ステップ
カタログ値ではなく自分の車の数値を取ります。メジャーと、寝るときに使う枕・掛け布団を車に持ち込んで作業します。
ステップ1:寝るときのシートアレンジを固定する
先に「どの形で寝るか」を決め、その状態にしてから測ります。前席をどこまで倒すか、後席をスライドさせるか格納するか、ヘッドレストを外すか——ここが変わると全ての寸法が変わります。決めたアレンジは写真に撮っておくと、次回の設営が早くなります。
ステップ2:最狭幅と全長を測る
固定したアレンジのまま、荷室のタイヤハウス間の幅(最狭部)と、寝床として使える前後方向の全長を測ります。全長は「頭を置ける位置から足を伸ばせる位置まで」の連続した面の長さで、途中の段差は無視して端から端まで取ります。この2つの数値が、マットのサイズ上限になります。
同時に、頭上の余裕も見ておきます。カタログの室内高1,265mmはフロア面から天井までの数値であり、マットを敷いた厚みの分だけ頭上の空間は減ります。厚さ10cmの下地を組めば、車内で身を起こして着替えるときの高さもその分低くなるため、厚みを追加するときは寝心地と居住性のどちらを取るかという選択になります。
ステップ3:谷の深さを測る
平らな板や物差しを段差の上に渡し、板の下面から谷の底までの距離を測ります。これが、埋めるべき高さです。前席と後席の境目、後席と荷室の境目の2か所で測っておくと、どちら側に厚みを寄せるかの見当がつきます。
よくある質問
MH35Sで大人2人は寝られますか
寝られますが、幅に余裕はありません。乗車定員が4名の軽自動車であり、車内でもっとも狭い位置の幅がマットの上限になるため、幅60cm前後のマットを2枚並べるとほぼ端まで埋まります。荷物は前席の足元か車外に出す前提になります。ゆとりを求めるなら1人での使用を想定したほうが快適です。
厚さ5cmのマットでも段差は埋まりますか
単体では埋まりません。ワゴンR MH35S/55S向けの専用段差解消マットが前側12cm・後側2.5cmという厚みの差を持たせている点から見ても、5cmの均一厚では前席側の落ち込みが残ります。5cmのマットを使う場合は、下にクッションやタオルを詰めて谷の底を持ち上げてから敷く方法を取ります。
MH34S用の専用マットをMH35Sに流用できますか
避けたほうが安全です。MH34SとMH35Sは世代が異なり、シート形状とフロアの段差位置が変わっています。専用マットは段差の位置に合わせて厚みを配分しているため、世代が違うと谷とマットの厚い部分がずれ、かえって寝心地が悪化します。適合表にMH35Sの記載があるかどうかで判断します。
エアマットとインフレーターマットのどちらを選ぶべきですか
段差が残る前提のワゴンRでは、インフレーターマットのほうが扱いやすくなります。エアマットは空気だけで支えるため、面が傾いていると寝返りのたびに空気が低い側へ移動し、体が沈む位置が変わります。ウレタンが内蔵されたインフレーターマットは形状を保ちやすく、多少の傾斜があっても寝面が崩れにくい構造です。
マットを敷いたまま走行してもよいですか
走行前に畳みます。マットを展開したままだと後席のシートベルトが使えず、急ブレーキの際に荷室の荷物が前方へ抜ける経路もできてしまいます。就寝用のマットは寝る前に広げ、走り出す前に畳んで荷室にまとめる運用が前提です。分割式のマットが扱いやすい理由には、この展開と撤収を短時間で終えられる点も含まれます。
まとめ:MH35Sのマット選びは段差から逆算する
要点を並べ直します。
- MH35Sの室内長2,450mmはカタログ上の数値で、寝床の長さではない(GAZOOカタログ/型式DBA-MH35S)
- 段差は前席背もたれと後席のつなぎ目、後席と荷室フロアの境目の2か所に出る
- 専用の段差解消マットは前12cm・後2.5cmのくさび形(趣味職人 くるマット・MH35S/55S系対応)で、10cm近い高低差を想定した設計
- 寝面まるごとの専用マットはMH35S以降の世代では選択肢が少なく、段差解消の専用品+汎用インフレーターマットの組み合わせが現実的
- 幅は室内幅ではなくタイヤハウス間の最狭部に合わせ、長さは分割マットで調整する
- MH35S/MH55S/MH85S/MH95Sは適合表では同一世代として扱われる(車検証の型式欄で確認)
購入前に実測するのは、最狭幅・寝床の全長・谷の深さの3つです。この3つの数値を持っていれば、商品ページのサイズ表を見た時点で合うか合わないかが判定でき、届いてから敷けなかったという失敗を避けられます。

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