装備によって積まれているジャッキで、冬タイヤへの履き替えまで自分で済ませようとする。G80 のタイヤ交換で起きやすい見落としはこれだ。BMW の M3 セダンの取扱説明書は、車両メーカーが用意したジャッキ(以下、純正のジャッキ)を故障時に短時間だけ車を持ち上げる物としていて、夏冬の履き替えのような頻繁な使用は想定していない。パンクで交換するときは、交換する車輪に最も近いジャッキポイントの四角いくぼみにジャッキを当て、ボルトは対角の順に締める。
ジャッキポイントの位置・持ち上げる高さ・締付トルク
G80 は M3 の 4 ドア・セダンの世代で、2020年から作られている(同じ世代のツーリングは G81)。2020年9月23日に M4 と一緒に発表され、2021年モデルとして発売された。
BMW の M3 セダンの取扱説明書では、作業の要所は次のとおり。
- ジャッキポイント: 交換する車輪に最も近い、ホイールハウスの脇にある四角いくぼみ。位置は取扱説明書の図で示されている
- 持ち上げる高さ: 交換する車輪が地面から最大3cm浮くところまで(取扱説明書の表記は max. 1.2 inches/3 cm)
- 締付トルク: 2021〜2026年の G80 のホイールボルトは 140N·m で、対角の順に締める(取扱説明書の表記は 101 lbs ft/140 Nm)。海外のホイール販売店の G80 向け適合ガイドも 140Nm(103 lb-ft)と記載している
主な出典は、BMW の M3 セダンの取扱説明書(英語版・2023年6月の版)だ。取扱説明書は標準・国別・オプションの装備をまとめて載せているので、手元の車には当てはまらない項がある。製造時期や仕向け地で版も違うため、作業の前に手元の車の取扱説明書でもジャッキポイントの図と締付トルクを確かめてほしい。
作業の前に確かめること
積んである工具とジャッキは装備で違う
取扱説明書は、ホイール交換用の工具セットや応急用ホイールを「装備によって」取り出すと書いている。積んでいるかどうかは装備で違い、ジャッキなどの交換用の工具は、必要なら正規の販売店でアクセサリーとして手に入る。まず荷室を開けて、手元の車に何が積まれているかを見ておく。
ロックボルトのアダプターの置き場所
ロックボルトが付いている車では、特別なコード(模様)の合うアダプターが無いとそのボルトは外せない。取扱説明書では、アダプターは車載工具セットの中か、その近くの収納にある。パンクしてから探すと手間取るので、普段のうちに置き場所を確かめておく。
純正のジャッキで夏冬の履き替えはしない
取扱説明書の警告では、純正のジャッキは故障時の応急用・スペアのホイールへの交換にだけ使う物だ。季節の履き替えは整備工場やタイヤ店に任せるのが無難だ。自分でやるなら、ジャッキポイントのくぼみに合う受けを備えたジャッキと、車を支えるリジッドラックを用意し、取扱説明書でジャッキポイントの位置を確かめてから始める。
止める場所と輪止めの準備
できれば平らで固く、滑らない場所で交換する。路上なら、道路の交通から安全な距離をとった、固く滑らない地面に止める。そのうえで、取扱説明書の安全措置を順に済ませる。
- ハザードランプをつける
- パーキングブレーキをかける
- 前輪がまっすぐ前を向くまでハンドルを回し、ハンドルロックをかける
- ギアを入れるか、セレクターレバーを P にする
- 交通の流れが許せば同乗者を全員降ろし、ガードレールの外側など危なくない場所にいてもらう
- 必要なら、三角表示板や非常点滅表示灯を適切な距離に置く
- 装備によって、ホイール交換セットと応急用ホイールを車から取り出す
車両メーカーは、車が転がらないよう追加で固定することも勧めている。交換する車輪と対角にある車輪の前と後ろに輪止め(または適当な物)を置く。緩い下り坂で交換するときは、前後の車軸の車輪の下側に輪止めや石などを置き、車が坂を下らないようにする。
ジャッキの当て方
交換する車輪に最も近い四角いくぼみに差し込む
ジャッキは、交換する車輪に最も近いジャッキポイントの四角いくぼみに差し込み、確実に入っていることを確かめる。ジャッキポイント以外の場所には当てない。ブリヂストンの解説では、ジャッキの溝がジャッキアップポイントに合っていないと、ジャッキアップポイント自体が曲がることがあるとしている。位置に迷ったら取扱説明書の図に戻る。
ジャッキの足を垂直にし、手の位置を変えない
片手でジャッキ本体を持ち、もう片方の手でハンドル(またはレバー)を握る。ハンドルを時計回りに回してジャッキを伸ばし、荷重がかかったら本体から手を離して、片手でハンドルを回し続ける。ジャッキの足が垂直に伸び、ジャッキポイントの真下で直角になっていることを確かめる。ジャッキでは手や指を挟むおそれがあるので、この手の位置を作業中に変えない。
持ち上げるのは車輪が浮いて3cmまで
ジャッキの底面全体が地面に着くまで回し上げ、交換する車輪が地面から最大3cm浮くところで止める。ブリヂストンの解説も、高く上げ過ぎると車体が不安定になり危険だとしている。
持ち上げている間は、取扱説明書の警告にある次のことを守る。
- 車の下に入らない。車を走行可能な状態にしない
- ジャッキの下に木の台などを置かない(支える力が落ちる)
- 柔らかい・凸凹・滑りやすい地面(雪・氷・タイルなど)ではジャッキが滑ることがある
- 車に横から力をかけたり、急に引っ張ったりしない
- 純正のジャッキはこの車とそのジャッキポイント専用で、ほかの車や荷物を持ち上げない
ホイールの外し方と付け方
持ち上げる前に半回転だけ緩める
ジャッキで持ち上げる前に、ホイールボルトを半回転だけ緩めておく。固着して外れないホイールは、無理に外さず正規の販売店か整備工場で外してもらう。
外したホイールの位置を控える
海外のホイール販売店の G80 向け適合ガイドでは、2021〜2026年の G80 の工場出荷の夏用ホイールは前9.5インチ・後10.5インチと、前後で幅が違う。前後で幅の違う組み合わせでは、外したホイールが付いていた位置(前後・左右)を控えておき、付けるときに前後を取り違えない。
対角の順に仮締めし、下ろしてから本締めする
- ボルトを外してホイールを外す
- 新しいホイールを当て、少なくとも2本のボルトを対角の順に手で締まるところまで入れる
- 残りのボルトも手で締め、全部のボルトを対角の順に締め付ける
- ジャッキのハンドルを反時計回りに回して縮め、車を下ろす。ジャッキを外して元の場所にしまう
- ボルトを対角の順に規定のトルク(2021〜2026年の G80 は 140N·m)で本締めする
- 校正済みのトルクレンチで、ボルトが締まっていることを確かめる
本締めは手の感覚ではなくトルクレンチで行う。ブリヂストンの解説では、手の感覚で締めると締め不足や締め過ぎになり、走行中にホイールが外れる危険につながるとしている。一度に1本を締め切らず、2〜3回に分けて対角の順で均等に締める。
ロックボルトはアダプターとホイールレンチで回す
外すときは、アダプターをロックボルトに付けてロックボルトを回し、外れたらアダプターを取る。付けるときは、アダプターをロックボルトに付け(必要ならはまるまでアダプターを回す)、ロックボルトを 140N·m で締めてから、アダプターを外してしまう。
BMW の M3 セダンの取扱説明書では、ロックボルトをインパクトレンチで緩めたり締めたりすると、ロックボルトが傷むおそれがあるとしている。ロックボルトはホイールレンチだけで回す。
ボルトの規格と、純正以外のホイールを付けるとき
海外のホイール販売店の G80 向け適合ガイドの記載では、2021〜2026年の G80 はナットではなくボルトでホイールを留める。
| 項目 | 適合ガイドの記載(2021〜2026年の G80) |
|---|---|
| ボルトのねじ | M14×1.25 |
| 座面 | 60°のテーパー |
| PCD | 5×112 |
| ハブ径 | 66.6mm |
BMW の M3 セダンの取扱説明書では、車両メーカーの純正品ではない軽合金ホイールを付けるときは、そのホイールに付属するボルトを使う必要がある場合がある。社外ホイールに替えるなら、ボルトもホイールと一緒に販売店で確かめる。
交換したあとにやること
交換したら、次の機会にタイヤの空気圧を確かめて車両指定の値に直し、パンク表示(フラットタイヤモニター)を再初期化するか、タイヤ空気圧モニターをリセットする。傷んだホイールは必要なら荷室に積み、近くの正規の販売店か整備工場で傷んだタイヤを替えてもらう。
少し走ったら、ボルトの締まりをもう一度点検する。コンチネンタルタイヤの解説では交換後50〜100kmを目安に、ブリヂストンの解説では約100km走ったところでトルクレンチで点検するよう案内している。走るうちにまれに緩むことがあり、緩むと最悪の場合は走行中にホイールが外れる。締め過ぎもねじ山をつぶすなどの問題になる。
トルクレンチが手元に無いときは、できるだけ早くガソリンスタンドや整備工場で、規定のトルクでの本締めを頼む。
パンクしたときは修理セットか応急用ホイールか
BMW の M3 セダンの取扱説明書では、パンクにはタイヤ修理セットで直すか、ホイールを交換して対処する。修理セットを使えば、空気が抜けた故障でもすぐにホイールを替えなくてよいことがある。ただし修理セットなどのシーラント(パンク修理剤)はホイールの電子部品を傷めることがあり、次の機会に電子部品を替えてもらう。
応急用ホイールを積む装備の車では、付ける応急用ホイールは1本だけ。傷んだタイヤやホイールを替えるまでの一時的な使用のためのもので、寸法が特別なので、ブレーキ時の安定性が下がる・制動距離が伸びるなど走りが変わる。応急用ホイールで走るのは、タイヤを替えてもらう所までにとどめる。荷室の応急用ホイールの空気圧も、定期的に確かめておく。
どちらを使うかは、作業の前に確かめた積み込みの中身で決まる。
車の下に入る作業はジャッキだけで支えない
ジャッキだけで車を支えると、ジャッキが外れて車が落ちたときに挟まれる危険がある。下に入る作業ならリジッドラックを使うのが望ましく、用意できない場合は保険として外したタイヤ・ホイールを車体の下に置いておく。純正のジャッキで持ち上げている間は、取扱説明書のとおり車の下に入らない。
よくある質問
車に積んであるジャッキで冬タイヤに履き替えてよい?
勧めない。純正のジャッキは故障時の応急用で、夏冬の履き替えのような頻繁な使用は想定していない。自分でやるなら、くぼみに合う受けのジャッキとリジッドラックを別に用意する。
ロックボルトにインパクトレンチを使ってよい?
使わない。ロックボルトが傷むおそれがあるので、アダプターを付けてホイールレンチで回す。
ホイールボルトの締付トルクは?
2021〜2026年の G80 は 140N·m で、対角の順に締める。BMW の M3 セダンの取扱説明書の値なので、手元の車の取扱説明書でも確かめる。
交換したあと、いつ締まりを確かめる?
タイヤメーカーの目安は、コンチネンタルタイヤが交換後50〜100km、ブリヂストンが約100km。その頃にトルクレンチで点検する。
G80 のホイールはナット留め?ボルト留め?
海外のホイール販売店の G80 向け適合ガイドの記載では、2021〜2026年の G80 はボルト留めで、ねじは M14×1.25。
まとめ
最初にやるのは、実車で現物を見ることだ。ロックボルトが付いているか、アダプターがどこにあるか、荷室にジャッキや工具、応急用ホイール、修理セットのどれが積まれているか、前後のホイールの幅が違うかを確かめる。そのうえで、手元の取扱説明書でジャッキポイントの図と締付トルクを照らし合わせる。
作業は、交換する車輪に最も近いジャッキポイントの四角いくぼみにジャッキを当て、車輪が地面から最大3cm浮くまで持ち上げ、対角の順に締めて、下ろしてから2021〜2026年の G80 は 140N·m で本締めする。交換後は空気圧を直してパンク表示を再初期化し、少し走ったら締まりを点検する。
G80 のほかの手入れも、あわせて確かめておくとよい。

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