bB(QNC20)の車中泊で最初に用意するのは、大判のマット1枚ではなく、段差と落ち込みを埋めるための厚みだ。トヨタが災害時の車中泊避難向けに公開している冊子では、bBが当たるボディタイプについて「前席シートのリクライニング利用が一般的です。後席とラゲージの連結は出来ますが、大きな段差や奥行が足りない場合、大人の就寝には工夫が必要です」と書かれている。しかも同じQNC20でも、前席の座面が沈む前期側なのか、後席がスライドする後期側なのかで、埋める場所そのものが変わる。だから買う順番は、車の年式と装備を確定する、寝る場所を決める、その状態で段差を測る、厚みを逆算する——この4段になる。
買うのは「1枚の大きなマット」ではない
bBで現実的な寝方は、前席を倒して寝る形が本線になる。荷室側は後席を倒せば床としてつながるが、トヨタの冊子が書くとおり段差と奥行きの制約が先に出る。つまり必要なのは車の床いっぱいを覆う大判ではなく、背もたれと座面の段差・足元の落ち込み・倒した背もたれの傾斜を埋める「厚み」のほうだ。
厚みの数字はカタログの表記から選ぶものではなく、自分の車の段差の高さから逆算する。そして段差の出方は年式で変わる。発売時の前席には座面が沈む機構があり、後席のスライド機構は後期の一部にだけ設定された。この2つのどちらに当たるかで、クッションを置く場所も、必要な枚数も変わってくる。
種類の話(インフレーターか、エアマットか、折りたたみ式か)は最後でいい。先に決めるのは形と厚み、そして畳んだときにどこへ積むかだ。
QNC20という型式と、車体側の確定数値
トヨタ自身の車両系統図では、2代目bBのボディタイプは「トールワゴン」に分類されている。2005年12月26日に発売され、2016年8月まで販売された5人乗りで、車検証の型式欄がQNC20ならこの記事の対象になる。
QNC20・QNC21・QNC25の違い
型式は3つある。QNC20が1.3L(K3-VE・1,297cc)の前輪駆動、QNC21が1.5L(3SZ-VE・1,495cc)の前輪駆動、QNC25が1.3Lのフルタイム4WDで、4WDの設定は1.3Lだけ。QNC20に4WDは無い。プラットフォームはパッソ由来で、姉妹車として2006年5月にダイハツ クー、2008年11月にスバル DEXが登場している。
寸法は「室内全体」の数値
トヨタが公開しているbBの主要諸元表(2015年2月版)によると、全長3,795mm(一部グレードは3,800mm)×全幅1,690mm×全高1,635mm、ホイールベース2,540mm。室内は室内長1,935mm(同1,970mm)×室内幅1,420mm×室内高1,330mm。
ここで先に断っておくと、室内長・室内幅・室内高は前席を含む室内全体を測った数値であって、寝床として使える広さでも荷室の寸法でもない。室内長1,935mmを「1,935mmの寝床が取れる」と読み替えることはできないし、室内高1,330mmは荷室の天井高でもない。マットのサイズと厚みはこの数値からは決まらない。
トヨタの車中泊資料でbBはどこに当たるか
トヨタが災害時の車中泊避難向けに公開している冊子には車種別のヘルプブックがあるが、対象車種の一覧にbBは入っておらず、bB専用のページは用意されていない。だからボディタイプ別の一般則で判断することになる。冊子の区分はセダン/ステーションワゴン/ミニバン/コンパクト/SUV/軽の6つで「トールワゴン」の欄は無く、5ナンバーの2boxであるbBに当たるのは冒頭に引いた「コンパクト」の記述だ。
同じ冊子はシートとラゲージを5つの軸で対比している。クッション性はシートが基本的に良く、ラゲージは何か敷かないと固い。フラット性は逆で、シートは形状によって様々、ラゲージは基本的に良い。開放感はシートが「全高が低いとやや圧迫感あり」、ラゲージは「奥行きが短いと窮屈」。防寒性はシートが基本的に良く、ラゲージは何か敷かないと冷えることもある。セッティングはシートがフラットにする手間、ラゲージが荷物の移動という違いになる。
bBの場合、室内高1,330mmがあるぶん「全高が低いとやや圧迫感あり」という弱点は薄い。厚いマットを敷いても頭上が残りやすいという意味で、bBは厚み方向の選択肢を取りやすい車だ。
同じQNC20でも年式で寝方が変わる
ここがこの記事の核心にあたる。中古で買った個体なら、まず自分の車がどちら側かを確かめるところから始めたい。
前期側:前席の座面が沈む
2代目bBの発売時にトヨタが出した発表資料では、フロントシートについて「リクライニングするだけではなく、座面が約80mm沈み込み、カウチソファのような状態になる上に、車外から乗員が見えなくなる新開発の『マッタリモード機能付フロントシート』を採用」と説明されている。トヨタが運営するクルマ情報サイトのbBカタログでも同じ機能が紹介されているが、その記述が出てくるのは2005年12月・2006年5月・2007年1月・2007年8月の年式ブロック、つまり2008年10月のマイナーチェンジより前の車両に限られる。
それ以降の紹介文にこの記述は現れない。bBの取扱書(2011年11月版)のフロントシートの説明も、前後位置調整・リクライニング調整・上下調整(運転席のみ)の3つだけで、座面が沈むモードの操作説明は載っていない。自分の車に付いているかどうかは資料からは断定できず、現車で確かめるしかない。
後期側:後席のスライド機構
後席のスライドは全車の装備ではない。トヨタが運営するクルマ情報サイトのbBカタログによると、2011年11月の一部改良でスライド機構付のリヤシートが「S エアロ-Gパッケージ」と「Z エアロ-Gパッケージ」に採用され、2013年2月には新たに設定されたパッケージへ標準装備された。取扱書もこれに対応して、後席の前後位置調整をスライドシート装着車の項でだけ説明し、倒す手順と操作部品も装着車と非装着車で書き分けている。
なお型式の表記も、同カタログのグレード表では2009年8月までが「DBA-QNC20」、2010年7月以降が「CBA-QNC20」と変わる。前期側か後期側かの手がかりにはなるが、前席の装備も後席スライドもグレードとパッケージで変わるので、表記だけで断定はできない。
自分の車を確定する4点
車検証の型式欄(DBA-かCBA-か)と初度登録年月を見る。後席の座面横または背もたれ肩口を見て、スライドレバーがあるか、それとも背もたれ肩口のフックだけかを確かめる。荷室にめくれる床板(デッキボード)があるかを見る。前席に座って背もたれを倒し、座面が沈むかを試す。この4点が決まってはじめて、どこを何cm埋めるかの話に進める。前オーナーが内装を変えている個体もあるので、書類だけで済ませない。
前席で寝るなら、必要なのは「埋めるもの」
トヨタの冊子が示す前席の作り方はこうだ。座面を一番うしろまでスライドし、背もたれを最大まで倒す。座面の高さが調整できる場合は一番下まで下げる——bBでこれができるのは運転席だけで、取扱書はレバーを上下に動かすごとに高さが変わると説明している。傾斜や凹凸はタオルやクッションで埋めると寝返りが打ちやすくなる。足元は座面と同じ高さになるように荷物やクッションで調整すると、足を上げて休める。腰や背中も大判のタオルやクッションで埋めて沈み込みを止める。ヘッドレストは一度抜いて反転して差し込むと寝やすくなる(一部車種は非対応)。
冊子は足元を埋めるものとして段ボール、フタつきバケツ、収納ケース、圧縮袋も挙げている。ここまで見ればわかるとおり、前席泊で効くのは大判のマットではなく、厚手の小さいクッションと折りたためるマット、そして大判のタオルの組み合わせだ。
前期側の座面が沈む車には、ひとつ固有の注意がある。沈んだ状態と沈まない状態では段差の出方が変わるので、クッションの厚みは座面を沈ませた状態で測って決める。なおシートを調整したあとは、軽く前後にゆさぶって固定を確認する、と取扱書は指示している。
後席の倒し方と、荷室側の制約
取扱書どおりの手順
bBの取扱書(2011年11月版)は後席の前倒しを次の順で示している。車を安全な場所に駐車し、パーキングブレーキを確実にかける。背もたれが当たらないよう、フロントシートの前後位置とリクライニング位置を調整する。リヤ左右席のシートベルトをベルトハンガーにかける。リヤシートのヘッドレストを一番下まで下げる。スライドシート装着車は、スライドレバーを引きながら車両後方いっぱいまで移動する。そのうえで背もたれを前に倒す——操作部品は仕様で違い、スライドシート装着車を除く車は背もたれ肩口のシートバックフック、スライドシート装着車は座面横のリクライニングレバーになる。
左右分割なので片側ずつ操作できる。図では座面を前方へ折り返し、その位置へ背もたれを倒す形が描かれている。リクライニングの調整角度は、起こしたときと倒したときの2段階(スライドシート装着車を除く)。倒すときも戻すときもシートベルトを挟み込まないようにし、戻したら背もたれを軽くゆさぶって固定を確認する。
荷室で寝るときに残るもの
全長3,795mm・ホイールベース2,540mmの車なので、後席を倒しても荷室側だけで大人が足を伸ばせる奥行きが取れるとは限らない。冊子が「大きな段差や奥行が足りない場合、大人の就寝には工夫が必要です」と書くのはこの部分だ。冊子が挙げる対処はそのまま使える。後席の前倒し部分に傾斜が残るなら厚めのマットや畳んだ段ボール、エアマットで傾斜を解消する。ラゲージに凹凸があるなら衣類やタオルを詰めて凹みを補い、くぼみが大きければ荷埋めした上に畳んだ段ボールを敷いて安定させる。
bB固有の制約もひとつある。取扱書は荷室の装備としてデッキボードとその下のデッキアンダートレイを挙げたうえで、「デッキボードの上にのらないでください。デッキボードが破損するおそれがあります」と明記している。荷室側に体重をかける寝方を考えるなら、この注意は外せない。
サイズと厚みは実測から決める
寸法の出どころは諸元表ではなく自分の車だ。前席泊なら、背もたれを最大まで倒した状態で腰が落ちる部分の深さ、座面前端から足元の床までの落ち込みの高さ、座面の幅——この3つを測る。座面が沈む車は沈ませた状態で測る。
荷室泊なら、実際に後席を倒した状態をつくってから測る。奥行きはバックドア側から倒した背もたれの先端まで、幅は左右のタイヤハウスの内側で一番狭いところ、そして倒した背もたれの面と荷室床との段差の高さ。スライドシート装着車は後方いっぱいにスライドさせた状態が基準になる。段差は巻き尺を床に沿わせず、垂直距離として測る。
厚みはこの段差の高さから逆算する。判定基準は「足を下げずに、水平に近い姿勢で寝られること」の1本でいい。厚みを増やせば頭上の余裕は減るが、bBは室内高に余裕がある部類なので、そちらより先に効いてくるのは畳んだときの体積のほうだ。荷室が広い車ではない以上、走行前に片づける場所を圧迫しない大きさに収まるかが実質的な上限になる。
マットの種類をどう選び分けるか
インフレーター(自動膨張)マットは、バルブを開けて放置すれば厚みが出る。寝心地と設営の手間の釣り合いが取りやすい一方、畳んだときの体積は大きめになる。エアマットは空気量で厚みを調整できるので段差や傾斜の吸収に強いが、ポンプと膨らませる時間が要る。高反発ウレタンは沈み込みにくく腰が落ちにくいものの、丸めても厚みが残る。EVAなどの折りたたみ式は展開が速く底冷えに強いが、厚みが出しにくいので大きな段差の吸収には向かない。
選ぶ軸は4つ——出せる厚み、設営と撤収の手間、畳んだときの大きさ、段差や傾斜を埋める用途への向き不向き。bBでは3番目の比重が大きくなる。そして前席泊と荷室泊では求める性能が逆を向く。シートは元からクッション性があるので足りないのは傾斜の補正、ラゲージは平らなかわりに床が固く冷えるので必要なのは厚みと断熱だ。
銀マットのような折りたたみ式には副次的な使い道もある。冊子は窓の目隠しについて、市販の目隠しカーテンはウィンドウサイズが様々なので、銀マットなどをカットして用意しておくと遮光や防寒対策にもなると書いている。運転時に外せることが大切、という条件も付いている。
走行前に戻す前提と、季節ごとのリスク
取扱書の禁止事項は、そのまま車中泊の運用条件になる。「倒した背もたれの上やラゲージルームに人を乗せた状態で走行しないでください」とあるので、寝床は走行前に必ず解体して積み直す。冊子も「運転する場合は、安全のためシートアレンジを元に戻すようにしてください」と書いている。「助手席や後席に荷物を積み重ねたりしないでください」ともあるので、足元を埋めた荷物とクッションの置き場所は出発前に決めておく。走行中はシートの操作をしない。背もたれを前倒ししたときは、子どもが荷室に入らないよう注意する。
冊子が挙げるリスクは、エコノミークラス症候群・熱中症・低体温症・一酸化炭素中毒・誤嚥性肺炎の5つ。足を伸ばして眠れるようにすること自体がエコノミークラス症候群の予防にあたり、それがマットの役割そのものだ。駐車場所は傾斜地を避け、明かりや人通り、近くにトイレがあることが望ましい。停車時はエンジンを止め、ドアはロックし、マフラーが壁や草で塞がれないようにする。冬は積雪でマフラーが塞がれると一酸化炭素中毒の心配があるので除雪する。夏は日陰と換気、定期的な水分摂取を心がける。なお冊子には、乗用車で横になって足を伸ばして眠れるのは大人なら2名程度、とも書かれている。
電源についても先に知っておきたい。取扱書(2011年11月版)を全文検索しても「アクセサリーコンセント」「100V」「給電」「コンセント」という語は1か所も出てこない。電気毛布のような電気製品を車両側の電源で動かす前提は立てられないということだ。防寒はマットの断熱と着るもので稼ぐか、車両とは別に電源を用意することになる。
よくある質問
bB(QNC20)は後席を倒すと床が平らになりますか
平らになるという保証は資料からは確認できない。取扱書にもトヨタ側のカタログ紹介文にも「フルフラット」「フラット」という記述は出てこず、トヨタの冊子もコンパクトについて段差や奥行き次第で工夫が必要と書いている。段差と傾斜が残る前提で、埋める道具まで含めて用意しておきたい。
自分のbBに座面が沈む前席が付いているか、書類で分かりますか
書類だけでは分からない。この機能の記述が確認できるのは2008年10月のマイナーチェンジより前の年式で、2011年11月版の取扱書には操作説明が無い。年式とグレードの組み合わせを車検証で押さえたうえで、実際に座って背もたれを倒し、座面が沈むかを試すのが確実だ。
後席がスライドしない車では車中泊に向きませんか
そんなことはない。スライド機構は2011年11月の一部改良以降に設定されたもので、それ以前の車にはそもそも付いていないが、bBで本線になる前席リクライニング泊はスライドの有無と関係なく成立する。後席を倒す手順が装着車と違うだけだと考えればいい。
QNC21やQNC25でも同じ考え方でよいですか
室内寸法の数値は3型式で共通なので、寝床づくりの手順は同じでいい。ただし前席の装備も後席スライドも年式とグレードで変わる点は同じなので、結局は現車の実測に行き着く。
車内のコンセントで電気毛布を使えますか
取扱書に該当する記載が無いため、使えるとは書けない。防寒はマットの断熱と衣類、あるいは車両とは別に用意した電源で組み立てることになる。
まとめ:買う前に確認する順番
- 車検証の型式欄と初度登録年月を見る(DBA-かCBA-か)
- 後席のスライドレバーの有無、荷室のデッキボードの有無、前席の座面が沈むかを現車で確かめる
- 前席泊にするか荷室泊にするかを決める
- その状態を実際につくり、段差の高さ・落ち込み・幅を測る
- 測った段差から必要な厚みを逆算する(カタログの厚み表記から選ばない)
- 畳んだ大きさが走行前の積み直しに収まるかを最後に確認する
この順で進めれば、bBに必要なのは大判のマットではなく厚みだという結論に自然に行き着く。装備の確認から始めるのが遠回りに見えて、いちばん速い。

コメント