朝いちばんの始動でカラカラ、段差を越えるたびにコトコト、速度が乗るとゴーという唸り——アルトで耳につく音は、発生源がエンジン・ミッション・足回り・内装に散らばっている。ただしアルトには、部品を疑う前に踏むべき手順がひとつある。スズキは2020年5月28日、アルト(HA36S/HA36V型)を含む車種でクランクシャフトのスラストベアリングが摩耗し「エンジンから異音が発生するおそれ」があると告知し、保証期間を新車登録から10年・走行20万kmまで延長した。つまり音の正体を探しにいく前に、その音が無償で直る対象かどうかを車台番号で調べる順番が正しい。
アルトの異音は型式とミッションで疑う場所が変わる
アルトは世代の切り替わりでエンジンもミッションも入れ替わっている。自車がどの型式・どのミッションかで、疑うべき部位の優先順位が変わる。車検証の型式欄を先に見ておくと、この記事の読む場所が決まる。
HA36S(2014年12月〜2021年)はR06A+ミッション3種
8代目アルトは2014年12月22日に発売され、日本市場向けは2021年11月26日をもって生産終了となった。エンジンはR06A型の658cc直列3気筒DOHC、自然吸気で最高出力38kW(52PS)/6,500rpm、最大トルク63N・m/4,000rpm。ミッションは5速MT(F、バンVPの2WD車)、5速AGS(F、バンVP)、CVT(L、S、X)の3本立てで構成される。同じHA36Sでもグレードによって「正常な音」の範囲がまるで違うのがこの世代の厄介なところで、AGS車の変速音をCVT車の基準で判断すると診断を誤る。
HA37S/HA97S(2021年12月〜)はR06D+CVTのみ
9代目はR06D型エンジンに換装され、最高出力49PS/6,500rpm、最大トルク5.9kg・m/5,000rpm。ハイブリッド(HA97S)はWA04C型のISG(モーター機能付き発電機)を積み、モーター出力2.6PS/1,500rpm、最大トルク4.1kg・m/100rpmを発生する。ミッションはCVTに一本化され、8代目にあった5速AGSと5速MTは設定が消えた。現行アルトで変速時にガチャッという音がしたら、AGSの作動音という逃げ道が無いぶん、CVT側の異常として扱うことになる。
車重610kg台の軽さが音を目立たせる
8代目の車両重量は610〜740kg(グレード・駆動方式により異なる)。軽さを最優先した設計で遮音材も最小限のため、同じ音量でも普通車より耳に届きやすい。ロードノイズや内装のきしみが目立つのはアルトの構造的な性格であり、それ自体は故障を意味しない。音の大小ではなく、音の種類と発生条件で切り分ける。
音を追う前に:アルトには無償で直る異音がある
エンジンからの異音について、スズキ自身が不具合を認めて無償措置を用意している範囲がある。ここを確認せずに一般整備工場で分解見積もりを取ると、本来ゼロ円の修理に十万円単位を払うことになりかねない。
スラストベアリング摩耗は保証10年・20万kmまで延長(HA36S/HA36V)
スズキは2020年5月28日、アルトを含む車種でスラストベアリングの保証期間延長を告知した。公式の記載は「クランクシャフトのスラストベアリングが潤滑不良により摩耗することがあります。そのまま使用を続けると、エンジンから異音が発生するおそれがあります」というもの。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 告知日 | 2020年5月28日 |
| 対象(アルト) | HA36S、HA36V型 |
| 対象製作期間 | 平成24年12月10日〜平成30年9月3日(車種により異なる) |
| 症状 | クランクシャフトのスラストベアリングの摩耗によるエンジンからの異音 |
| 延長後の保証 | 新車を登録した日から10年間、ただし走行距離20万kmまで |
| 措置 | シリンダブロック、スラストベアリング、クランクシャフトを対策品に交換(無償) |
見落としやすいのが期限で、延長された保証も「登録から10年」で切れる。2016年に登録したHA36Sなら2026年中に期限を迎える計算になり、エンジンからの異音に心当たりがあるなら先延ばしにする理由がない。詳細はスズキ公式のスラストベアリング保証期間延長のお知らせに掲載されている。
AGS車は2024年7月届出のリコールを確認する
5速AGS搭載車には別件のリコールがある。2024年7月18日届出、アルトの対象型式はHBD-HA36V、DBA-HA36S、5BA-HA36S、4BA-HA36Sで、他5車種と合わせて計133,200台。内容はAGSアクチュエータのオイルポンプ駆動用モータで「ブラシが膨張し、摺動不良となるものがあります」、その結果「最悪の場合、ブラシが固着してモータが導通不良により作動しなくなり、警告灯が点灯するとともに変速不能及び走行不能となるおそれがあります」。改善措置は全車両のアクチュエータ点検と、該当する場合のモータ交換となる。
ここで正確に押さえておきたいのは、この届出に異音は症状として書かれていないこと。音が出ているからリコール対象、という関係ではない。ただし点検も交換も無償なので、AGS車であれば音の有無と関係なく対象確認をしておく価値がある。
過去のリコールと車台番号での確認方法
もう1件、2019年10月3日届出のリコールがある。対象はDBA-HA36SとHBD-HA36Vのうち平成27年9月2日〜9月18日製作の計912台で、「左前ドライブシャフトにおいて、焼き入れ処理が不適切なため、強度が不足しているものがあります」という内容。台数は少ないが、折損すれば走行不能に至る部位で、措置は左前ドライブシャフトの良品交換となる。
対象かどうかは車台番号で判定できる。車検証を手元に置き、スズキのリコール・改善対策・サービスキャンペーン 対象車両検索に車台番号を入力すれば、未実施の作業が残っているかがその場で分かる。
なお、R06D型エンジンのピストン摩耗による異音のサービスキャンペーン(2020年4月23日届出)を検索で見かけることがあるが、対象はハスラー(5AA-MR92S)とワゴンR(5BA-MH85S、5AA-MH95S)で、アルトは含まれていない。9代目アルトの発売はこの届出より後であり、同じR06D型でも別の話として扱う。
音の種類と発生条件から当たりをつける
音の種類と、それが出る場面を突き合わせると、疑う部位はかなり絞れる。ここで見当をつけてから、該当するセクションを読む。
早見表:音×発生条件×疑わしい部位
| 音の種類 | 出やすい場面 | 疑わしい部位 | 緊急度 |
|---|---|---|---|
| ゴロゴロ・カラカラ(金属質) | 暖機後も消えない・アイドリング中 | クランクシャフトのスラストベアリング摩耗(HA36S) | 高 |
| カチカチ(打音) | 冷間始動直後だけ、暖機すると消える | 油圧が回るまでの一時的な打音・オイルの劣化や量不足 | 低〜中 |
| キュルキュル | 冷間始動時・エアコン作動の瞬間 | 補機ベルトの滑り・張力低下・硬化 | 中 |
| ゴー・ウォーン(車速に比例) | 40km/h以上、カーブで音質が変わる | ハブベアリング | 中〜高 |
| コトコト・ゴトゴト | 段差やうねりを越えた瞬間 | スタビライザーリンク、ブッシュ、ショックアブソーバー | 中 |
| キーキー(高い金属音) | ブレーキを踏んだとき | ブレーキパッドの摩耗警告(ウェアインジケーター) | 中 |
| ガチャッ・ウィーン(変速時) | 発進・変速のたび(5AGS車) | AGSアクチュエータの作動音=構造由来 | 低 |
| ウーン(回転だけ先行) | 加速時(CVT車) | CVTの変速特性=正常。振動を伴えば要診断 | 低〜中 |
| ビビリ・キシキシ | 荒れた路面・寒暖差のある日 | 内装トリムのがた・クリップの緩み | 低 |
緊急度を切り分ける3つの視点
判断の軸は3つある。ひとつ目は暖機との関係で、暖機すると消える音は様子見の範囲、暖機後も残る金属質の音はエンジン内部を疑う。ふたつ目は同期する対象で、エンジン回転に同期するのか車速に同期するのかが分かれば、エンジン系か足回り・駆動系かで候補が半分に絞れる。3つ目は付随症状で、警告灯の点灯・ステアリングへの振動・焦げたにおいのいずれかを伴う音は、走行を続けずに入庫する。
エンジンから出る音
暖機後も消えないゴロゴロ音はスラストベアリングを疑う
R06A型もR06D型もタイミングチェーン駆動で、タイミングベルトのような定期交換を前提としていない。それでもエンジン内部から金属質の連続音が出る場合、HA36Sではスラストベアリングの摩耗が現実的な候補になる。スズキ自身が潤滑不良による摩耗と異音を認めて保証を延長した箇所であり、オイル交換を延ばしがちだった個体ほど当たりやすい。アイドリング中にボンネットを開け、エンジン下部から低く連続する金属音が聞こえるなら、部品を注文する前に車台番号での対象確認へ進む。
冷間始動時だけのカチカチ音
始動直後にカチカチと鳴り、水温が上がると消えていく音は、油圧が各部に行き渡るまでの一時的な打音であることが多い。オイル量の不足や劣化、指定と違う粘度のオイルを入れた直後にも出やすい。音が消えるまでの時間が回を追うごとに延びているなら、オイル交換の周期そのものを見直すタイミングだと考えたい。潤滑不良はスラストベアリング摩耗の引き金でもあり、この段階の手当てが後の出費を左右する。
キュルキュルは補機ベルトの滑り
冷間始動の瞬間や、エアコンのコンプレッサーが入った瞬間だけキュルキュル鳴るなら、補機ベルトの張力低下やゴムの硬化が候補になる。ベルトは消耗品で、表面にひび割れが出ていれば交換で解決する部位。放置してベルトが切れると発電もパワーステアリングの補助も止まるため、鳴きが常態化した時点で点検に出す。
ハイブリッド(HA97S)のISG作動音は正常
HA97SはWA04C型ISGでエンジンを再始動し、加速時にモーターアシストを加える。アイドリングストップからの復帰でウィーンという電動音が混じるのはこのISGの作動音で、モーターで回しているぶん、セルモーターのキュルキュルッという始動音とは音質そのものが違う。復帰のたびに鳴っても故障ではない。逆に、ISGを駆動するベルトが滑れば通常の補機ベルトと同じくキュルキュル音が出る。
駆動系:5AGSとCVTでは正常な音の範囲が違う
5AGS(HA36SのF・バンVP)の変速音は構造由来
AGSについてスズキは「MTをベースにクラッチおよびシフト操作を自動で行う電動油圧式アクチュエーターを採用した新開発のトランスミッション」と説明している。中身はMTで、クラッチを切る・繋ぐという動作を機械が代行する仕組みだ。したがって変速のたびにトルクが一瞬抜け、アクチュエータが動く音が出るのは設計どおりの挙動で、CVT車の滑らかさを基準に故障と判断するものではない。AGS車で異常を疑うのは、警告灯が点いたときと変速そのものができなくなったときで、この症状は前述した2024年7月届出のリコール内容と一致する。
CVT車のうなり音とジャダー
CVT車(HA36SのL・S・X、およびHA37S/HA97Sの全車)は、加速時にエンジン回転だけが先に上がってウーンと唸る。これは無段変速の特性で、異常ではない。一方、発進時に小刻みな振動を伴うガタガタ音が出る、あるいは変速時に明確なショック音が出るという症状は正常の範囲外で、フルードの劣化や内部の摩耗を疑う段階に入る。振動を伴うかどうかが、正常な唸りと異音の境目になる。
足回りとブレーキの音
車速に比例するゴー音はハブベアリング
40km/h前後から「ゴー」「ゴロゴロ」という低い音が出て、速度を上げると音程も上がるならハブベアリングが第一候補になる。判別のコツはカーブでの変化で、右カーブと左カーブで音の質が変わるなら前輪のハブベアリングの可能性が高い。中古車情報サイトのグーネットが公開するハブベアリングの交換時期と費用では、寿命の目安をおおよそ10万km前後とし、交換費用はディーラーで一輪あたり15,000〜30,000円、整備工場で一輪あたり15,000〜20,000円程度、部品代は5,000〜8,000円が目安と示されている。同記事は放置した場合について「焼き付きが進行すると、ベアリングがロックしてホイールが正常に回らなくなり、最終的には走行不能になる恐れもあります」とも記しており、音程が上がるタイプのゴー音を長く引っ張るのは分が悪い。
段差でコトコトはスタビリンク・ブッシュ
段差やマンホールを越えた瞬間だけコトコト、ゴトゴトと鳴る音は、スタビライザーリンクのボールジョイントのがた、ロアアームやスタビライザーのブッシュの劣化、ショックアブソーバーの減衰低下が候補になる。車重の軽いアルトはサスペンションのストロークも短く、ブッシュのへたりが打音として表に出やすい。停車状態で車体の四隅を上下に揺すり、音が再現するかを見ると当たりがつく。再現するならその側の足回りに絞り込める。
ブレーキのキーキーは摩耗の合図
ブレーキを踏んだときだけ高い金属音が出るのは、パッドの残量が規定を下回るとローターに触れて鳴る金属板(ウェアインジケーター)が働いている可能性が高い。これは設計上の警告機構で、鳴り始めたらパッド交換の時期を指している。一方、雨上がりや朝いちばんの数回だけ鳴ってすぐ消える音はローター表面の薄い錆によるもので、数回の制動で削れて消える。鳴り続けるか、走り出すと消えるかで性格が分かれる。
室内のビビリ音・きしみ音
車両重量610〜740kgという数字が示すとおり、アルトは徹底した軽量化の上に成り立っている。内装トリムも薄く、クリップの緩みや樹脂の熱収縮で接触部が鳴りやすい。定番の発生源はダッシュボード周辺、Aピラー、リアハッチ回りで、荒れた路面や寒暖差の大きい日に出やすいのが特徴。同乗者に該当部を手で押さえてもらいながら走ると、鳴っている場所を絞り込める。隙間にフェルトテープを噛ませるだけで止まる例が多く、修理費が膨らむ類の音ではない。走行に関わる部位ではないため、緊急度は低い。
入庫前にやる切り分けと記録
記録する5項目
音の種類(ゴロゴロ/カチカチ/キュルキュル/ゴー/コトコト/キーキー)、発生条件(冷間か暖機後か、発進時か段差か制動時か)、エンジン回転と車速のどちらに同期するか、警告灯・振動・においの有無、そして走行距離とグレード(F/L/S/X、AGSかCVTか)。この5点を控えて持ち込むと、工場で再現しにくい音でも診断が進みやすい。スマートフォンで録音した音があると、伝達の精度はさらに上がる。
先に言い添えるひとこと
HA36Sなら「スラストベアリングの保証延長の対象か調べてほしい」、AGS車なら「2024年のアクチュエータのリコールが未実施か見てほしい」と最初に伝える。整備側で車台番号を照会すれば数分で判明する話で、この一言があるかどうかで、有償の分解見積もりに進むか無償交換で終わるかが変わる。ディーラーでなくとも、リコール情報は車台番号から確認できる。
よくある質問
アルトのエンジンからゴロゴロ音がします。放置できますか
暖機後も消えない金属質の音は、HA36Sではクランクシャフトのスラストベアリング摩耗の可能性がある。スズキは潤滑不良による摩耗でエンジンから異音が発生するおそれを認め、保証を新車登録から10年・走行20万kmまで延長している。放置して悪化させるより、期限内に車台番号で対象確認をするほうが結果的に負担は軽い。措置はシリンダブロック、スラストベアリング、クランクシャフトの対策品交換で、対象なら無償となる。
5AGSの変速時のガチャッという音は故障ですか
AGSはMTをベースにクラッチとシフト操作を電動油圧式アクチュエーターが代行する構造のため、変速のたびに作動音とトルク抜けが出るのは設計どおりの挙動。故障を疑うのは、警告灯が点灯した場合や、変速そのものができなくなった場合になる。後者は2024年7月18日届出のリコール(アクチュエータのオイルポンプ駆動用モータ)の症状と重なるため、車台番号での対象確認へ進む。
現行アルト(HA37S/HA97S)にも5AGS特有の音はありますか
9代目のミッションはCVTのみで、5速AGSと5速MTは設定が無い。したがってAGSの作動音は出ない。アイドリングストップからの復帰時にウィーンという電動音が混じるのはハイブリッド(HA97S)のISG(WA04C型)の作動音で、これも故障ではない。現行型で変速に絡む異音や振動が出るなら、CVT側の症状として扱う。
走行中のゴー音は、タイヤとハブベアリングのどちらですか
カーブでの変化が分かれ目になる。右左折やカーブで音量・音質が変わるなら前輪のハブベアリングの可能性が高く、直進でもカーブでもほとんど変わらず、タイヤを新品にすると小さくなるならタイヤ由来のロードノイズと考えられる。アルトは遮音材が薄いぶんロードノイズが目立ちやすいため、タイヤの摩耗や偏摩耗の影響も先に見ておく。
段差でコトコト鳴りますが、車検には通りますか
音そのものは検査の項目ではない。ただし原因がスタビライザーリンクのボールジョイントのがたやブッシュの裂けであれば、その部位の状態によって不適合になることがある。音が出ている時点で部品は消耗しているため、車検のタイミングでまとめて交換したほうが工賃の面でも無駄が少ない。
まとめ
アルトの異音は、エンジン(スラストベアリング、補機ベルト)、ミッション(5AGSの作動音とCVTのうなり)、足回り(ハブベアリング、スタビライザーリンク)、内装のビビリという4系統に整理できる。そして他車と決定的に違うのが、エンジンからの異音についてスズキ自身が保証を10年・20万kmまで延長しているという点だ。HA36S/HA36Vに乗っていて心当たりがあるなら、部品を疑うより先に車台番号を照会する。AGS車なら2024年7月届出のリコールも同じ照会で分かる。無償で直る可能性を先に潰したうえで、音の種類・発生条件・同期する対象を控えて入庫すれば、そこから先の診断は速く進む。

コメント