道の駅の駐車場でシートを倒してみて、思ったほど体が伸びないと気づく。アルトで車中泊を考えるとき、最初にぶつかるのはこの長さの壁だ。9代目アルト(HA37S/HA97S)はリヤシートを格納しても荷室床面長が1,225mmしかなく、そのままでは大人が足を伸ばして横になれない。長さは前席まで使って稼ぎ、格納したシート背面に残る傾斜と隙間はマットで埋める。この2つを分けて考えると、必要なマットの寸法と厚みは自然に決まってくる。
アルト(HA36S/HA37S)の寸法と車中泊で効く数値
アルトは全長3,395mm・全幅1,475mmと軽自動車の枠いっぱいのボディを持つが、車中泊の可否を決めるのは外形ではなく室内と荷室の数値だ。カタログ値を並べると、8代目(HA36S)と9代目(HA37S/HA97S)では寝床づくりの前提が少しずつ違うことが見えてくる。
| 項目 | HA36S(8代目・2014年12月〜2021年12月) | HA37S/HA97S(9代目・2021年12月〜) |
|---|---|---|
| 全長 | 3,395mm | 3,395mm |
| 全幅 | 1,475mm | 1,475mm |
| 全高 | 1,475mm | 1,525mm |
| ホイールベース | 2,460mm | 2,460mm |
| 室内長 | 1,985mm(L・CVT) | 1,960〜2,015mm(グレードで差あり) |
| 室内幅 | 1,255mm | 1,280mm |
| 室内高 | 1,215mm | 1,260mm |
| 乗車定員 | 4名 | 4名 |
9代目で広がったのは高さと幅
スズキの公式リリースは、2021年12月22日に発売した9代目について、全高を50mm、室内高を45mm、室内幅を25mm拡大したと説明している。表の数値もそのとおりで、室内高は1,215mmから1,260mmへ、室内幅は1,255mmから1,280mmへ増えた。車内で身を起こして着替える、寝袋を広げる、荷物を頭上に寄せるといった動作は9代目のほうが楽になる。ただし広がったのは高さと幅であって、寝床の長さではない。長さの条件は8代目とほとんど変わっていないと考えて設計したほうが安全だ。
車中泊で本当に効くのは荷室床面長
室内長は前席の足元から後席背もたれまでを測った数値で、寝床として使える長さとは一致しない。マットの寸法を決めるときに見るべきなのは、リヤシートを格納したときの荷室の実寸のほうだ。
| 項目 | HA36S(8代目) | HA37S/HA97S(9代目) |
|---|---|---|
| 荷室床面長(通常時) | 420mm | 425mm |
| 荷室床面長(リヤシート格納時) | 1,220mm | 1,225mm |
| 荷室床面幅 | 905mm | 905mm |
| 荷室開口幅(最大) | 1,065mm | 975mm |
| 荷室開口高 | 690mm | 710mm |
| 荷室開口部地上高 | 690mm | 660mm |
リヤシートを格納しても床面長は1,225mm、先代でも1,220mmだ。身長165cmの人なら足りない分がおよそ43cm、175cmならおよそ53cmで、この差分を前席側から借りるのがアルトの車中泊の基本設計になる。床面幅905mmという数値も効いてくる。就寝スペースの幅はここが実質的な上限で、大人2人が並んで横になるには足りない。
リヤシートは一体可倒式で左右に分けられない
9代目のリヤシートは一体可倒式で、左右を別々に倒す分割可倒式ではない。片側だけ倒して残りを座席として使う、という使い分けができないため、アルトの車中泊は1人就寝を前提に組み立てるのが現実的だ。さらに、格納した背もたれは水平にならず傾斜が残り、シート裏と荷室床の継ぎ目には隙間もできる。マットに求められる仕事は、この傾斜と隙間を埋めて連続した面を作ることであり、寝心地の追求はその後にくる。
アルトで寝床を作る3つのレイアウト
限られた寸法の中で寝床をどう組むかは、就寝人数と滞在時間で決まる。同じHA36Sでもスポーツグレードでは前席形状が異なるため、アルトワークスの車中泊レイアウトは別記事で扱っている。ここでは標準グレードのアルトを前提に、実際に成立する3つの型を挙げる。
助手席前倒し+後席格納(1人就寝の王道)
リヤシートを格納し、助手席を目一杯前へスライドさせたうえで背もたれを前方へ倒す。こうすると荷室の1,225mmに助手席の背面がつながり、体の長さぶんの面がようやく確保できる。運転席は起こしたままにしておくと、荷物置き場として使えるうえ、いざというときにすぐ動かせる。足元にできる高さの差は、クーラーボックスや収納ボックスを詰めて埋めるのが手早い。シートの折れ目にできる隙間は、たたんだタオルや衣類で詰めておくと腰が落ちにくくなる。
荷室と後席足元だけで仮眠する(短時間向け)
長距離移動の途中で1〜2時間だけ体を横にしたい場合は、前席をいじらずリヤシートの格納だけで済ませる方法もある。使える長さは1,225mm前後にとどまるため足は伸ばせないが、膝を曲げた体勢なら休息はとれる。前席を動かさないぶん復帰が早く、荷物の積み替えも要らない。翌朝そのまま走り出す前提の仮眠なら、この割り切りが噛み合う。
大人2人で寝られるか(幅905mmの壁)
荷室床面幅は905mmで、大人が2人並ぶには明らかに狭い。加えてリヤシートが一体可倒式である以上、後席を倒せば座席としては使えなくなる。アルトでの2人泊は、1人が車内・1人がテントという分担にするか、そもそも車中泊向きの別の車を選ぶほうが無理がない。軽自動車でも室内の高いモデルなら条件は変わるため、比較の材料としてワゴンRの車中泊レイアウトを見ておくと、アルトに何が足りないのかがはっきりする。
段差と傾斜を消すマットの選び方
アルトの車中泊マットは、寝心地の道具である前に段差を消すための構造材だ。選定の軸は厚み・サイズ・素材の3つで、優先順位もこの順になる。
厚み:傾斜と隙間を吸収できるか
格納したリヤシートの背面には傾斜が残り、シート裏と荷室床の継ぎ目には段差ができる。薄いレジャーシートのようなマットでは体重で沈み込み、下の傾斜や継ぎ目がそのまま背中に浮き出てくる。腰の下に硬い線が当たる状態では、長さが足りていても眠れない。厚みのあるマットを1枚敷くか、段差の部分にだけクッションを差し込んで面をそろえるか、いずれかの方法で連続した平面を作ることが先決になる。厚みは寝心地のためではなく、段差を隠しきるために選ぶと考えると迷いが減る。
サイズ:幅905mm・長さ1,225mmを基準に分割式を選ぶ
マットの幅は荷室床面幅905mmに収まる寸法、つまり90cm以下が目安だ。1人就寝なら幅60cm前後のシングルサイズで足り、左右に小物やペットボトルを置く余地も残る。長さについては、荷室に収まる1枚と、前席側の段差を埋めるもう1枚を継ぎ足す構成が扱いやすい。180cm級の長尺マットを1枚で敷こうとすると、荷室内で折れ曲がったまま前席背面の傾斜に乗り上げてしまい、かえって面が崩れる。左右に分けられないリヤシートを持つアルトでは、マットの側を分割式にして地形に合わせるのが理にかなう。なお9代目は荷室開口幅が975mmと先代の1,065mmより狭いため、厚みのあるマットをリヤゲートから出し入れするときは、開口部を通る寸法かどうかもあわせて見ておきたい。
素材:インフレーター・エアー・高反発ウレタン
自動で膨らむインフレーターマットは、収納時に小さくたためて厚みも出しやすく、段差解消と寝心地を両立させやすい。空気だけで膨らませるエアーマットは軽くて厚みを稼げる反面、底付きしないぶん体が浮いて寝返りが打ちにくいことがある。高反発ウレタンのマットは畳んでも厚みが残るため、荷室が小さいアルトでは日中の置き場所に困りやすい。銀マットは断熱材として優秀だが単体では段差を消せず、他のマットの下に敷く補助として使うと役割がはっきりする。
底付きと寝返り
軽自動車の車中泊で睡眠を削るのは、寒さよりも先に硬さであることが多い。マットが薄すぎると腰と肩が沈んで床に当たり、寝返りのたびに目が覚める。逆に柔らかすぎるマットは体が沈み込み、狭い車内で寝返りを打つときの支えを失う。荷室の1,225mmという条件下では体勢の自由度がもともと小さいため、適度な反発があって面が崩れないマットのほうが結果的に眠りやすい。
マットと寝袋の組み合わせは、出発前に一度自宅の駐車場で組み立ててみると失敗が減る。荷室に敷いたときに段差がどれだけ残るか、助手席を倒したときの継ぎ目がどこにくるか、体を伸ばしたときに頭と足が何に当たるかは、実際に横になってみるまで見えてこない。同時に、日中はマットをどこにしまうのかという問題も浮かび上がる。荷室の小さいアルトでは丸めたマットが荷物の置き場所を圧迫するため、展開時の寸法だけでなく収納時のサイズもマット選びの条件に入ってくる。
マットと合わせて用意したい車中泊グッズ
マットで面を作れたら、次は視線・空気・光・温度の4つを整える段階に入る。アルトは車体が小さいぶん、少ない道具でも効果が体感しやすい。
目隠し(サンシェード・カーテン)
外から車内が見えないようにすることは、防犯とプライバシーの両面で欠かせない。フロントガラスとサイドウインドウを覆うだけでも安心感は大きく変わり、朝日で早く目が覚める問題も同時に軽くなる。専用設計のシェードなら窓の形に沿って隙間ができにくい。車種別の選び方はアルトワークスのサンシェード比較がそのまま参考になり、HA36S系の窓形状を共有する標準アルトでも考え方は変わらない。
換気と結露対策
窓を閉め切って眠ると、呼気の水分で朝には窓一面が結露する。数センチ窓を開けて空気の通り道を作るのが基本で、虫が気になる季節は網戸状のウインドウネットを併用する。荷室開口高710mmのリヤゲートを少し開けて換気する手もあるが、走り出す前に閉め忘れがないかを確認しておきたい。結露した窓は出発前に拭き取らないと視界を奪う。
照明と電源
天井の室内灯を点けたままにするとバッテリーが心配になるため、LEDランタンをひとつ持ち込むと車内で手元を照らせる。スマートフォンの充電はポータブル電源やモバイルバッテリーでまかない、エンジンをかけて充電する運用は避ける。荷室の空間に余裕がないアルトでは、電源類を含めた小物の置き場所をあらかじめ決めておくと、夜中に足元を探る手間が減る。荷室まわりの整理はアルトワークスの荷室収納アイデアの考え方が流用できる。
夏と冬の温度対策
夏はエンジンを止めた瞬間から車内温度が上がるため、標高の高い場所を選ぶ、日陰に停める、換気を確保するといった立地の工夫が効く。冬は床下から冷えが上がってくるので、マットの下に銀マットを重ねて断熱層を作り、寝袋は使用可能温度に余裕のあるものを選ぶ。アルトは室内高1,260mm(9代目)と天井が近く、暖まりやすい反面、外気の影響も受けやすい。寝具でしのぐ前提で装備を組むのが現実的だ。
軽自動車の車中泊で守りたい安全とマナー
道具がそろっても、停める場所と使い方を誤ると車中泊は成立しない。ここは寸法の話ではなく、守らないと事故や迷惑につながる領域になる。
アイドリングと一酸化炭素
エンジンをかけたまま眠るのは避ける。とくに冬季、積雪でマフラーの出口がふさがれると排気ガスが車内へ逆流し、一酸化炭素中毒で命に関わる事態を招く。暖房はエンジンではなく寝袋や電気毛布でまかない、どうしても冷えるときは走行して車内を暖めてから停めるという順番にする。アイドリング音は周囲への迷惑にもなる。
車中泊してよい場所かを確かめる
道の駅やサービスエリアは仮眠のための駐車が想定されている一方、キャンプ行為(車外にテーブルや椅子を広げる、調理する)は禁じられていることが多い。宿泊を目的とするなら、車中泊を受け入れているキャンプ場やRVパークを使う。私有地や商業施設の駐車場に無断で泊まるのは論外で、地域のルールを確認してから停める習慣が結局は自分を守る。
荷物の置き場所と視界
後席を格納すると荷物の置き場所は前席と足元に限られる。運転席側に荷物を積み上げると、翌朝の出発時に視界を遮ったりペダル操作を妨げたりする。就寝前に、走り出すときの視界とペダルまわりが空いている状態を作っておくと、寝ぼけたまま発進する事故を防げる。
よくある質問
アルトで大人2人は寝られますか
荷室床面幅は905mmで、大人2人が並んで横になるには足りません。リヤシートも一体可倒式のため、片側だけ倒して2人ぶんの寝床を作り分けることもできません。2人で出かける場合は、1人が車内・1人がテントに分かれる運用か、より室内の広い車種を選ぶほうが無理がありません。
身長175cmでも足を伸ばして寝られますか
リヤシート格納時の荷室床面長は1,225mm(先代HA36Sは1,220mm)なので、荷室だけでは50cm以上足りません。助手席を前へスライドさせて背もたれを前倒しし、荷室から助手席背面までを一続きの面にすれば、体を伸ばす余地が生まれます。足元にできる高さの差はボックス類やクッションで埋めてください。
HA36SとHA37Sでマットのサイズは変わりますか
荷室床面幅は両世代とも905mm、リヤシート格納時の床面長も1,220mmと1,225mmで実質的な差はありません。マットのサイズ選びは同じ基準で問題ないと考えて構いません。違いが出るのは室内高(1,215mm対1,260mm)と荷室開口幅で、9代目のほうが車内での動作に余裕がある一方、開口幅は975mmと先代の1,065mmより狭くなっています。
車中泊マットは厚いほどよいですか
厚みは段差を隠しきる目的で選ぶもので、厚ければ厚いほど快適になるわけではありません。厚すぎるマットは天井までの距離を削り、室内高1,260mmのアルトでは起き上がるときの窮屈さにつながります。格納したシート背面の傾斜と継ぎ目の段差を吸収できる厚みが確保できていれば、そこから上積みする必要は薄いと考えてください。
後席を倒さずに寝る方法はありますか
助手席の背もたれを倒し、後席はそのまま残して助手席側だけで体を伸ばす方法があります。荷物を後席に置いたまま寝られるため、積載量が多い旅では扱いやすい構成です。ただし助手席の背もたれは完全な水平にはならないため、傾斜ぶんをクッションやマットで補う工夫は同じように必要になります。
まとめ:荷室1,225mmを前提に道具を選ぶ
アルトの車中泊は、リヤシートを格納しても荷室床面長が1,225mm(HA36Sは1,220mm)しかないという事実から逆算すると、やるべきことが絞られる。長さは助手席を前倒しして前席側から借り、格納したシート背面の傾斜とシート裏の隙間はマットとクッションで埋める。マットの幅は荷室床面幅905mmに収まる90cm以下、1人なら60cm前後で足り、長さは1枚モノではなく分割式で地形に合わせる。9代目で広がった室内高1,260mmと室内幅1,280mmは着替えや寝袋の展開を楽にしてくれるが、寝床の長さは増えていない。ここを見誤らなければ、軽自動車最小クラスのアルトでも眠れる夜は作れる。

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