エンジンをかけた直後や、走り出してすぐの速度域で、これまで聞こえなかった音が混じる。86(ZN6)はトヨタのクルマ情報サイトのカタログ情報によると2012年4月から2021年10月まで販売された車で、同じZN6でも製作時期によってメーカーが届け出た改善措置の対象範囲が変わる。だから音の正体を先に当てにいくより、自分の個体が届出の対象に入っていないかを潰すほうが早い。その確認から、症状別の切り分け、販売店への伝え方までを順に見ていく。
異音は「どこで」「いつ」で分かれる
JAFのトラブル診断では、異音を音の名前ではなく、エンジン付近・ハンドルを回したとき・走行中のタイヤ付近・エンジンを停止した後の回転音、という発生箇所と発生場面で分けて診断している。自分の音がどの行に当てはまるかを決めるのが最初の一手で、聞こえ方を言葉にするのは後でいい。
| 場所・場面 | 聞こえ方の例 | この記事で読む場所 |
|---|---|---|
| エンジン付近 | ガラガラ、キュルキュル | 届出4361 → 症状別の節 |
| ハンドルを回したとき | 回すと出る、戻すと消える | 症状別の節(急ぐ側) |
| 走行中のタイヤ付近 | 速度に合わせて変わる | 症状別の節(急ぐ側) |
| エンジンを止めた後 | 回転音が続く | 症状別の節(回転音) |
音の種類そのものから逆引きしたいときは、車種を問わない診断チャートも用意している。
エンジンの異音で最初に見る届出4361
トヨタが公開している86のリコール情報(届出番号4361)によると、2018年11月1日に株式会社SUBARUが届け出たこのリコールは、不具合の状況を「原動機の動弁機構部において、設計が不適切なため、バルブスプリングの設計条件よりも過大な荷重及び一般的な製造ばらつきによる当該スプリング材料中の微小異物によって、当該スプリングが折損することがあります。そのため、エンジンから異音が発生し、また、エンジン不調となり、最悪の場合、走行中にエンジンが停止するおそれがあります」と記載している。改善の内容は「全車両、バルブスプリングを対策品に交換します」。
ZN6について公開されている届出のうち、不具合の状況に「異音」がはっきり書かれているのはこの4361だけである。だからエンジンから音が出ているZN6は、ここを最初に当たる。
対象は型式DBA-ZN6・通称名86、対象車の含まれる車台番号がZN6-002028〜ZN6-031766、製作期間が平成24年3月12日〜平成25年7月2日、台数は26,804台。同じページには「対象車の含まれる車台番号の範囲には、対象とならない車両も含まれますので、詳細については最寄りのトヨタ販売店にお問い合わせください」「対象車の製作期間はご購入の時期とは異なります」という注意書きも添えられている。範囲に入っていそうなら、部品を自分で手配する前に車台番号を販売店へ伝えて確認するのが順番として正しい。
低圧燃料ポンプの届出は「異音」として案内されていない
同じエンジンまわりでも、低圧燃料ポンプの届出は症状の書き方が違う。エンジンの音を調べていて行き当たりやすい届出なので、内容と想定症状を分けて見ておく。
対象は4994と5434の2件に分かれる
トヨタが公開している86のリコール情報(届出番号4994)では、2021年7月29日届出のこのリコールについて、燃料ポンプのインペラ(樹脂製羽根車)の樹脂密度が低く、燃料により膨潤して変形し、ポンプケースと接触して燃料ポンプが作動不良となり、最悪の場合は走行中エンストに至るおそれがある、と説明している。対象は型式DBA-ZN6、車台番号ZN6-084518〜ZN6-091821、製作期間 平成30年4月6日〜平成30年11月5日、3,108台。
トヨタが公開している86のリコール情報(届出番号5434)では、2024年1月26日に同じ不具合について「検証を進めた結果、対象拡大の必要性が判明したため、新たに届出するもの」として範囲が広げられている。型式DBA-ZN6(車台番号ZN6-076273〜ZN6-093746、製作期間 平成29年7月10日〜平成31年4月2日、5,449台)と型式4BA-ZN6(車台番号ZN6-100002〜ZN6-101757、製作期間 平成31年4月3日〜令和元年8月9日、1,675台)の2系統に分かれ、さらに交換修理用部品として出荷された燃料ポンプモジュールASSY(部品番号42021CA010、332個)と低圧燃料ポンプ(部品番号42022CA000、278個)が組み付けられた車両も同じ改善の対象とされている。
案内されている症状は始動不良・警告灯・加速不良
注目したいのは、この2件のページにある「お客様への運転時のお願い」だ。そこに書かれているのは「エンジンが掛かりにくい、エンジン警告灯の点灯、加速不良などのエンジン不調が発生した際は、速やかにトヨタ販売店にご連絡をお願いいたします」という案内で、想定されている症状は始動性の悪化・警告灯の点灯・加速不良であって、異音ではない。いま出ている音の説明としてこの届出を持ち出すことはできない。
リコール検索に出てきても、音とは関係しない届出
車台番号で検索すると、音とは無関係の届出が並ぶことがある。トヨタが公開している86のリコール情報(届出番号4137ほか)によると、2017年11月16日届出の4137は、車両製作工場の完成検査において完成検査員に任命されていない検査員が合否判定を行ったもので、改善の内容は指定整備工場での点検および自動車検査員による確認。対象は型式DBA-ZN6、車台番号ZN6-002090〜ZN6-077678、製作期間 平成24年3月12日〜平成29年9月29日、19,190台で、同種の届出として4188・4352・4369も公開されている。これらは車両から音が出る不具合を扱ったものではない。
トヨタが公開している86の改善対策(届出番号503)によると、2016年7月21日に富士重工業株式会社が届け出た改善対策は、トランクヒンジのガスステー(ダンパーステー)取付部のボールスタッドの熱処理が不適切で亀裂が生じているものがあり、開閉の繰り返しでボールスタッドが破損してトランクリッドを保持できなくなるおそれがある、という内容。対象は型式DBA-ZN6、車台番号ZN6-060991〜ZN6-061115、製作期間 平成28年4月5日〜4月12日、106台と狭い。こちらはトランクの開閉時の挙動として現れる話だ。リコールが1件見つかったからといって、それがいま鳴っている音の原因とは限らない。
対象かどうかは年式ではなく車台番号で決まる
国土交通省の案内では、リコールの対象になるとハガキ等でメーカーから直接通知され、通知がない場合や心配な場合はメーカーや購入した販売店に相談するよう案内している。あわせてリコール情報検索については「リコールの対象を車台番号の幅で示しております。生産工場やグレードの違い等によって対象とならない車両も含まれている場合がありますので、個別の車両の確認は各メーカーまでお問い合わせいただきますようお願いいたします」とし、主要メーカーでは車検証に記載された車台番号を入力して検索できるシステムがあるとも補足している。
つまり「何年式だから対象」「この年式なら関係ない」という読み方はできない。手元の車検証を開いて、車台番号そのもので当たる。
確認のときにもう1点効いてくるのが型式の分かれ方だ。カタログの発売時期と型式の対応では2012年4月発売から2018年7月発売までがDBA-ZN6、2019年4月発売以降が4BA-ZN6で、メーカーのリコール情報でも平成31年4月2日までの製作分がDBA-ZN6、平成31年4月3日以降が4BA-ZN6として区分されている。届出ごとに対象の型式と車台番号の幅が違うため、両方を見る必要がある。中古で買った個体なら、前のオーナーの時点で改善措置が済んでいる可能性もあるので、実施履歴の確認も販売店に頼んでおくといい。
届出の範囲外で起こる音を症状別に見る
車台番号が届出の範囲に入っていなくても、音は出る。ここからは一般的な原因の当たりのつけ方になる。
エンジン付近のガラガラ音・キュルキュル音
JAFのトラブル診断では、エンジン付近のガラガラ音はエンジンオイルの不足や潤滑不良が発生している可能性、キュルキュル音はベルトが滑っている可能性としており、どちらも点検が必要な状態としている。さらに、状況によっては潤滑不良や冷却不良でエンジンが焼き付き(金属同士の摩擦部分が加熱し、溶けて固着してしまうこと)を起こし、エンジンがかからなくなることもあると説明している。オイル量の確認だけは自分でもできるので、点検に出す前に見ておく価値がある。
ハンドルを切ったときの音、走行中のタイヤ付近の音
この2つは様子見に向かない。JAFのトラブル診断では、ハンドルを回した際の異音についてステアリング機構に異常が発生している可能性があるとし、ハンドル機構に異常があるとハンドル操作が行えなくなる可能性があるため走行は大変危険だと明記している。走行中のタイヤ付近の音については「タイヤに異物が刺さっていたり、走行関係の部品が痛んでいるなど、走行中の異音発生源は多岐にわたり複数の原因が推測されます」としており、こちらは原因を1つに絞る書き方ができない領域だ。この2つが出たら、走り続けるかどうかを自分で決めない。
ZN6はFRの2ドアスポーツで、グレードによって足まわりの中身が違う点も頭に入れておきたい。カタログ情報では、2020年5月時点のラインアップは標準の「G」、17インチ専用アルミホイールなどを備える「GT」、本革×アルカンターラのシート表皮の「GTリミテッド」、Brembo社製ブレーキを標準装備する「GTリミテッド ブラックパッケージ」、専用チューニングのSACHS製アブソーバーと高性能ブレーキを搭載する「GR」、専用スポイラーなどを備える「GRスポーツ」。同じZN6でもブレーキやアブソーバーの仕様が異なるため、他の個体の事例をそのまま当てはめられない。
エンジンを止めたあとに続く回転音
JAFのトラブル診断では、エンジン停止後も回転音がしている場合について「一部の車種では、エンジンを冷却するためエンジン停止後もしばらく冷却ファンが回り続けている車種もあります」としたうえで、「長時間回っている場合は故障の可能性も考えられます」として点検が必要な状態としている。音がしている=異常、とは限らない例だ。ただし、どこまでが正常な作動音かの線引きは音を聞いていない側では決められない。気になるなら、次の項の伝え方に沿って点検側に渡すのが早い。
販売店に伝えるときの4点
整備側が知りたいのは、音の名前より再現の条件だ。JAFの診断が分岐に使っている観点に合わせて、次の4点を整理してから持ち込む。
- 音がする場所(エンジンルーム・足元・前後左右・室内のどこか)
- 音が出る場面(始動時/アイドリング中/発進時/一定速度での走行中/ブレーキを踏んだとき/ハンドルを切ったとき/停止後)
- 音の質(ガラガラ、キュルキュル、回転音など、聞こえたままの表現でいい)
- 再現条件(毎回出るのか、冷えているときだけか、特定の速度域だけか)
スマートフォンで音を録っておくと3と4が一度に伝わる。そして車検証を一緒に持っていけば、届出の対象確認まで同じ来店で片づく。国土交通省の案内どおり個別車両の確認先はメーカー・販売店なので、症状の相談と対象確認を分けて往復する理由はない。
なお、JAFのトラブル診断はここで挙げたどの症状についても一貫して点検が必要な状態としており、ハンドル操作時の異音のように走行が大変危険と書かれているものもある。乗り続けるかどうかを自己判断で決めず、安全を確認したうえでロードサービスの救援要請か整備工場での点検を選ぶ。
よくある質問
年式だけで自分の86がリコール対象か分かりますか
分からない。国土交通省の案内では、リコール情報検索は対象を車台番号の幅で示しており、生産工場やグレードの違いによって範囲内でも対象にならない車両が含まれるとしている。車検証の車台番号で当たるのが確実だ。
エンジンの異音が出ているが、そのまま走ってもいいですか
JAFのトラブル診断では、エンジン付近の異音は点検が必要な状態とされている。とくにハンドル操作時の異音は走行が大変危険と明記されているため、自己判断で走り続けず、点検か救援要請に回したい。
型式がDBA-ZN6と4BA-ZN6で分かれているのはなぜですか
カタログの発売時期と型式の対応では2018年7月発売までがDBA-ZN6、2019年4月発売以降が4BA-ZN6になっている。メーカーのリコール情報でも平成31年4月2日までの製作分と4月3日以降の製作分で区分されており、届出ごとに対象の型式が異なる。
エンジンを切ったあとに音がするのは故障ですか
JAFのトラブル診断では、一部の車種はエンジン冷却のため停止後もしばらく冷却ファンが回り続けるとしている。ただし長時間回っている場合は故障の可能性も考えられるとされているので、続く時間が気になるなら点検に出す。
燃料ポンプのリコールを受けていれば異音は直りますか
その届出は異音を対象にしていない。低圧燃料ポンプの届出(4994・5434)でトヨタが案内しているのは、始動性の悪化・エンジン警告灯の点灯・加速不良といったエンジン不調だ。異音が残るなら別の要因として相談する。
まとめ
エンジンから音が出ているZN6でやることを、順番どおりに並べ直しておく。
- 車検証を開き、車台番号を控える(年式や通称名では判断できない)
- 届出番号4361(バルブスプリング)の対象範囲に入っていないかを販売店に確認する。不具合の状況に「エンジンから異音が発生し」と書かれているのはこの届出
- 低圧燃料ポンプの届出(4994・5434)は始動性・警告灯・加速不良の話なので、異音の説明としては使わない
- 対象外だったら、音の場所と場面で症状別に切り分ける
- ハンドル操作時と走行中のタイヤ付近の音は様子見にせず、点検か救援要請に回す
- 場所・場面・音の質・再現条件の4点を書き出し、車検証と一緒に持ち込む
今日できる1手は、車検証を出して車台番号を控えるところまで。それだけで、次に電話を1本かければ対象かどうかが分かる状態になる。

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